汗をかきながら歩く。
多分土手みたいな所だ。
もしかしたら川沿いだったかもしれない。

多分、とか、かもしれない、という不確かな表現の理由はそれが夢であるからだ。

最近はよく夢を見る。
たった20分。
たった20分の間に雑貨店に行って、裸足でサンダルを奪ったヤツらを追い掛ける。
相手が複数に対して自分は一人だが、夢の中の自分は勇猛果敢に追い掛ける。
そして何か、何かもう一つ取られて目が覚めるのだ。




『夢現、そして微睡み』




頭の中の整理は寝ている間に行われる。
そこに行き交う情報が交差した所に夢は生まれる。
深層心理が働いているとも言われていたっけ。

「どう思う?」

聞かれた所でシカマルは夢を読み説く事など出来やしない。
それをわかった上で聞くのは人間のなんとなしの行為だ。
けれどもどうも、自分は本気で聞いている様な気がしてならない。

「どうって言われても」
「だよなぁ」
「他にどんな夢見んの?」

ジジィになって溶岩みたいな風呂に入る夢とか。
虫がウゴウゴしてる夢とか。
ああ、ちょっと前なら包丁で刺される夢見たなぁ。

「…なんか今の状態に不安とかでもあんの?」
「なぁ。オレもそう思う」

不安なんてないけどなぁ。
そう口から出てしまうもんだから答えになっていない。
答えが出せない。

「何だろう、なあ」

夢の中で何を取られたかわからない。
ただ何となくだが、大事なものだったような気がする。
それを必死に取りかえそうとしたけれど、及ばなかった。
腕力には自身があった。
ただ、相手は夢なのだ。
あれよあれよという間に取られた。
『何か』を。

「アスマ」

呼ばれたのはわかったが、いつの間にか訪れた眠気に体は正直だった。
薄い膜一枚下に自分の精神がある気がする。
膜がビリビリと震え、くぐもった音が、名を呼ぶ声が、心地よく響く。
もし覚醒したら昨夜の任務を呪うだろうが、今は体がふわりと委ねられている。
この感じは、少し幻術に似ているといつも思う。




本当は眠たかったんだろうというのはわかっていた。
わかっていたけど、できれば起きていてほしいと思うのはエゴだった。
だって短時間の睡眠の間に夢を見るという話を聞いた矢先、目の前で寝られたら。
その夢が、不可思議で時に恐ろしいものだと聞いたら。
葛藤の末、五度ほど呼んだ。
返事はない。
諦めて本を、

「シカマル」

取ろうと思ったが、ビクリと体を震わせて急に覚醒したアスマに驚いて本を取り落としてしまった。
平静を保てない。

「サンキューな」

大事なら手放すな、なんて。
誰に言われたっけ。

「お前に取りかえしてもらった」

何に書いてあったっけ。

「よかったな」

忘れてしまったが。

「ああ。何だか結局わからなかったけどな」

取りかえしてきたらしい。
夢の中の自分は。

駄目だ、自分はそんな風になれない。
きっとなれない。
美化されているんだと思う。
買い被られすぎだと思う。
そんなヒーローに、自分はなれない。
きっと、なれない。

本を握る手に力が籠る。
嫉妬している。
夢の自分に。

恥ずかしい。
恥ずかしい。

…馬鹿みたい、だ。
顔をあげるのに躊躇してしまう。






急に寝ちゃってごめん、とか、変な話してごめん、とか。
謝る言葉ならいくつでも浮かんだ。
けれども。
この状況は考えていなかったから、どうしていいか戸惑う。

普段よりもっとずっと眉間に皺を寄せるのは平静を保つ為。
急に黙りこくるのは考えモードに突入しているから。
だから漏れた情報に、不覚にも笑いそうになってしまった。
お前、バカだなあ。
折角なので、声に出して言ってみる。

「お前、バカだなあ」

相手が不安な顔をしているのに自分は嬉しかったり。
相手が困っているのに自分は楽しかったり。
そういう気持ちは、誰にだってあるはずだ。

だからわかってほしい。

「お前、バカだよ」

この感情のこと。





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20071227




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