長引いた任務を終わらせ、手早く報告を済ませ、足早に家へと帰る。
いつもは一人の自宅に灯りを見つける。
見知った気配に、慣れない挨拶。
「…ただい、ま？」
「おう、おかえり」
やっぱり、慣れない。
年越し
ぬくぬくのコタツに温州みかんを山のように重ね、シカマルが「よっ」と片手を上げた。
手にしているものは年越し蕎麦。
見ているテレビは紅白歌合戦。
なんて形式に則った年の越し方だろう、笑ってしまう。
それに気付いて眉をしかめる顔に、もう一度笑ってしまう。
多少の疲れがどこかに吹っ飛んでいきそうだった。
汚れたベストを脱ぎ捨て、コタツへと足を伸ばす。
「ちょい待ち」
「何」
「汚れるから先に風呂へどうぞ」
「オレんちだし、いいだろ別に」
「駄目」
「だよなー」
妙な所で頑固なシカマルに逆らうのも面倒くさくて、ベストを拾って風呂場へと行く。
洗ってくれたのだろうか、既に湯が張ってあって、しかも丁度温かい。
適当に済ませようと思っていたが、折角なのできちんと洗う事にする。
頭を洗うと混じっていた砂がジャリ、と音を立てて床に流れた。
風が強かったからかなぁなんてだらだらと考えながらシャワーコックを捻る。
一瞬冷たい水がかかってしまい、震えた。
「おかえり」
やっぱり慣れない。
風呂から上がり、今度は許可されたコタツへの入室。
失礼しますと足を伸ばすとシカマルの足とぶつかった。
直ぐさま引っ込められる。
ついでに席を発たれる。
別に、いいのに。
「で？どうしてここにいるんだお前は」
本当なら日にちを跨ぐ任務ではなかったか。
頭を使う任務が多いシカマルは、最近睡眠不足なんだと先日ぼやいていた筈だ。
任務しながら年越しとかありえないだろ。マジめんどくせっつの。
確かに聞いた筈だ。
台所から年越し蕎麦を片手に戻ってきたので、いつ作ったんだと話題が逸れる。
「で？どうしてここにいるんだお前は」
一区切りついて、もう一度聞く。
とろろが入った蕎麦を啜りながら。
「任務、終わったから」
「マジか」
「マジっす」
「スゲーなお前」
「だろ」
手を伸ばし、いい子いい子と頭を撫でる。
恥ずかしくて目を泳がせながらも、拒否する様な素振りはない。
頭から耳、頬と手を滑らせる。
机越しだが、不思議と距離は感じない。
ずっとコタツにいたのだろう、安心しきった頬を徐(おもむろ)に引っ張る。
大人になり切れていない年代特有の柔らかさ。
急に何すんだ、と文句を垂れる。
それでも振払われない。
どうしていいのか分からなくなる。
どうにか手を離すが、その手をどこへ持っていけばいいのか。
動揺しているのだろうか、自分でもよく分からない。
それを悟られるのがとても恥ずかしい様な事に思えてならない。
とりあえず、蕎麦を食べ終える事に専念した。
「…あ？」
「え、何？」
足、が。
「…いんや、何でもなかった」
「あ、そ」
お互い、そしらぬ顔でテレビを見る。
いつの間にか紅白は終わっていた。
気付く筈がなかった。
いつの間にかチャンネルを変えられていた。
バラエティ番組の騒がしさが気にならなかった。
それほど、なのだろうか。
「なんでガキ使？」
共に年を跨いだ事がなかったから、シカマルとイコールで繋がりにくかった。
勝手なイメージで大変恐縮だが、なんとなく、ゆく年くる年のようなイメージだった。
いやいや、本当に勝手なイメージで申し訳ないが。
「いつもはCDTVなんだけどさ、」
うんごめん、それもちょっとイメージに無かったわ。
「見てたらいつの間にか年越しちゃってるって聞いて」
言って、視線はテレビに移る。
それなのに、コタツの中で先程のように小突いてくる。
親指らしきものがふくらはぎのズボンを突つき、ぎゅっと挟む。
「いつの間にか、で年越しなんてしていいのか？お前は」
コタツに入って。
みかんを並べて。
年越し蕎麦を食べて。
紅白歌合戦を見て。
そんな形式に則ったような事をしておいて、肝心の年越しをそんな方法で迎えるなんて。
「いいんだよ」
視線はテレビのまま。
誰かが笑って、罰ゲームをしている所。
画面がチカチカして見える。
「ああ、そうだよな。オレと過ごせりゃなんでもいいよな」
ズボンを挟まれたままの足とは反対側の足で、同じ真似をしてみせる。
ツンツン、ツン、ぎゅ。
いいですか？つまみますよ？いいんですね？
ぎゅ。
「…それ、自意識過剰すぎねぇ？」
やっとテレビから視線を外し、首を傾げる。
時計がカチリと刻む。
わざと視線を合わせ、一旦外し、また合わせる。
口元が緩む。
「今年の抱負は攻めの姿勢でいこうかな、と思いまして」
もしもアイツが笑ったら。
新年早々、まず一勝。
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20081231
fcさんありがとう。
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