ゆらゆらと空が歪んで見える。
空を仰ぐと口だって半開きになる。
まぁ、今の今まで煙草を吸っていたのだから仕方がないことなのだが。

甘く見ていた、というのが正直な所だろうか。
いつだって真剣に望んでいた。
それは相違無い。
勝てるとは思わなかったが、負けるとも思っていなかった。
勝たなければいけないと思っていたのだ。
それなのに。

視界にはかつての教え子が自分を囲っていた。
敵の撤退は己の力ではなさそうだった。
意識が朦朧として、あまりまともに思考が働かない。
一方で、やけに冷静に現状を分析している自分がいる。

ああ、オレの役目は終わってしまったのだ、と。

大した手傷を負わせることが出来なかった。
いや、普通の人間じゃなかったから、なのだが。
それは言い訳にしかならないだろう。

いつから感情が昂らなくなったのだろう。
人を切るあの感触に、酔わなくなったのだろう。
もしそれが今回初めての気持ちだったとしたなら、それは多分決意をしたから。
大切なものが増えた。
増え過ぎた。

この世にはまだ、未練が多すぎる。

目を開けるのがこんなに難しかっただろうか。
息をするのが、こんなに辛かっただろうか。
先ほどまで内に秘めておいた言葉を吐き出してしまったからだろうか。
頭の中を巡るのは、俗に走馬灯と呼ばれる類のものだろう。
頬を動かしてまで笑う力は残っていないが、本当に見れるものなのだなあと感心してしまった。
誰なんだろう、己の淵の間際にですら、こんな言葉を残した者とは。

オレは、何を残せただろう。
生きている必要なんてあったのだろうか。
生を受けた限り、何かを残したかった。
人間としてのエゴだった。

人は、いつか必ず死ぬ。
それが早いか遅いかだけだ。
生は人に平等で、また、死も人に平等である。
けれど、出来るならもっと生きていたかった。
生きて大切なものの成長を見届けてからがよかった。
忍をやっている限り、贅沢な望みではあるけれども。
それでも、出来るならとそれを望んでいた。
体がざわついていた筈なのに、いつの間にかぴたりと止まっていた。

最期に見たのは教え子の顔。
オレって幸せものだなあ。
そしてなんてバカなんだ。
最期の最期だというのに。
15歳に気を使わせてしまっている。

オレが安心していけるように、だろうか。
無理強いして笑ってみせやがる。

プレゼントをしたピアスが、キラリと光って見えた。
力が抜けた後、暫く嗚咽が響いたそうだがオレは気付かなかった。

気付けなかった。




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061102




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