「…キバ、」

熱の籠った声に、ん?なに?と返す。
ベッドの脇に座って、洗って来たばかりの掌でシカマルの頬に触れる。
虚ろな目と視線が合う。
困ったような眉がピクリと揺れる。

「冷たい」
「バーカ、お前が熱いんだよ」
「…アホ」

昨夜は寒かった。
知っていたのに、バカみたいに体をくっつけあって、暖かいから問題ないって無理を言った。
疲れて落ちるように眠って、朝起きたら幸せ気分の自分とだるそうなシカマルがベッドの中にいた。
散らばった髪の毛を適当にまとめるみたいにして頭を撫でてやる。
キバ、熱い。
文句を言われたので名残惜しいがちょっと体を放す。
キバ、熱い。
鼻声で言われ、気付く。

「何でお前は風邪引かねんだっつの…」
「んー…、あ、アホだから?」
「バカ」

じゅるじゅると鼻を啜るので箱ティッシュを差し出す。
2枚を重ね、チーン。
ゴミ箱の中身はほぼ白一色である。
昨夜使ったやつは、鼻水の奥の奥にある筈だ。

「正当な理由ができてよかったな」

何が?という視線を寄越されたのでティッシュ盛りのゴミ箱を指差す。
怪訝な顔をされた。
きっと本当は顔を赤くしているんだろうけれど、風邪を引いているので変化がよく分からない。
実に残念なので、せめて自分の都合のいいように解釈しておこうと思う。

病人をベッドに仕舞い込んで、先程絞ってきたタオルを額に乗せた。
ベッドから聞こえるうーうー唸る声を他所に冷蔵庫を漁る。
目当てのものを取り出すとほぼ空になる冷蔵庫の内容量のなさに愕然とした。
仮に何か入っていたとして、何を与えるのが一番いいのかは分からないとはいえ。

看病なんてした事が無かった。
された記憶は小さい頃に数える程。
母が風邪の時は姉が、姉が風邪の時は母が看病していたのだ、仕方が無いと言えばそれまでだ。
だからおかゆなんて作った事が無かったから少し不安ではあったが、かといって他に何も思い付かない。
イメージと記憶だけを頼りに、無いよりはマシだろうと台所に立つ。

「シカマルー…起きてる?」
「…ん、あぁ」
「あのさ、お粥、とか…作っちゃったんだけど」

正式には『残っていた白ごはんに水を加えてぐずぐずに暖めたやつの真ん中に梅干しを突っ込んだもの』。
今は名前なんてどうでもいいが。

「あー…マジで?すげーじゃん」

つらいクセに気を利かせて褒めてくれるし、今は何も食べたくないという顔を隠している様に見える。
そんなの全然構わなくて、シカマルが食べたい時に食べればいい。
薬を飲む時に何か腹に入っていないと駄目だというのは知っていたからその時でもいい。

「…で、作ったやつを持って来ないでお前は何してんだバカ」
「え?あー…、今はなんか食いたくなさそうだったから後で食えば、と思って」
「ふーん…食わせてはくれないワケね」
「…ちょ、そういうのは流石にベタすぎじゃねぇ?」

笑ってやると、眉間の皺が一層深くなる。
辛い時にそういう表情をすると頭が痛くならないのだろうか。

「普通だろ」
「普通じゃねーよ」
「風邪だけど正常だっつの。いいから黙って早く持って来いよ」

看病されている側だというのに何故こんなにも上から目線でいられるのか不思議でならない。
言われた通り、いいから黙って早く持って行く事にする。
レンゲを視界に入れ、少しばかり緊張する。
それでも脳内でシュミレーション済み、いつでもオーケー。
ゴーサインさえ出してくれれば。

「お、サンキュー」

言って、すぐにレンゲを手にする。
器に手を添える。
ああ、別に「はい、あーん」とかじゃないワケね。だよな。1人納得する。
勝手に恥ずかしい思いをしている。

「シカマル」
「んー?ああ、普通にうまいけど」
「はい、あーん」
「やーめーろっ」
「いやいや、ここは大人しく口開けとくべきよ?」

マズイ飯を食って、身体がなまらない程度に動いて、寂しくないように笑って。
いっぱい熱出して、いっぱい汗かいて、いっぱい睡眠とって。

「オレが看病したら、んなショボイ風邪なんてすーぐ治っちまうんだからな」

早くよくなれ。

「…ハッ。そりゃ、頼もしいこって」

ただ、そう願っている。





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20090309




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