もう長い間、泣く事を忘れていたよ。

何十年も生きているから、辛い思いは何度もした。
でも、自分以上に辛い思いをしているだろうに気丈に振る舞える人を知っていた。

貴方は今でも闘っているのですか?

先生。





目の前にはぐしぐししながら今にも泣き出してしまいそうなキバ。
眉間に皺を寄せ、目を充血させ、歯を食いしばり、鼻をヒクヒクさせている。
こっちまで悲しくなってしまう。
おいで、と言うと素直にこっちに来る。
しょんぼり。
元気のない髪の毛をうんと優しく撫でてやる。
いつもは割と乱暴にガシガシやってしまうのでくすぐったいのだろう、背筋を震わせた。

人は誰だって失敗する生き物だ。
全てが成功する完璧な人間なんて恐ろしい。第一面白味がない。
そんな完璧さを求めてなんかいやしないし、そんなに過大評価をしている風にも見えない。

「オレならできる、とか。……ちょっと思ってた」
「最終的に上手く事が運んだんだろ?それならいいじゃない」
「うん、でも」

足を引っ張ってしまったのは紛れも無く自分。
そんな自分が自分で許せない。
こんな風に、真摯に向き合うキバがとても羨ましい。

たらればで過去を後悔する事は今後の注意に繋がるから大事だ。
けれど、できれば見たくないなあ、そんな顔は。
こっちまで悲しくなってしまう。
既に手後れかもしれないけれど。

「…なんで、カカシ先生が泣きそうな顔してんの」
「ん?わかるの?」
「目は口ほどにも物を言う、って先生が教えてくれたんだぜ」
「うーん、そうだったっけ」
「そうだよ」

代わりに泣けたらいいのにね。
そしたらキバの辛そうな顔なんて見る必要もない。
関係ないのに泣いてしまったオレを見て、もしかしたら笑ってくれるかもしれない。
けれども泣き虫の左目でさえ、もう何年も泣いていないよ。
悲しい事、辛い事、嬉しい事、たくさんあったんだけどなあ。
感情はあるのに、どこか自分を冷静に見ている第三者の自分が中にいるんだ。
そいつが一言、何かを発すと途端、全ての行動が馬鹿馬鹿しく見えてしまって。

「泣ける内に泣いてた方がいいよ、キバ」

自分みたいな人間にはならないだろうけれど、でも言っておく。
だっていつしか人は声を張り上げて泣く事を忘れ、噛み殺すように泣くんだ。
息は荒くなるし鼻はツーンとするし顔はぐちゃぐちゃになるのに。
いずれは嬉しい事も悲しい事も、どこかに一度置いてから手元に持ってくるようになる。
純粋に何かを感じる事なんて。

「泣くのって、案外体力消耗しねぇ?」
「いいんだよ」
「でも」

声に出して音に出して体から出すんだ、思いの全てを。

「だいじょぶ、顔は見ないであげるよ」

引き寄せ、胸に押し付け抱きすくめる。
泣き散らして泣き疲れて目を冷やしておやすみ。

もう長い間、泣く事を忘れていたよ。
だから感情っていうものが欠落してしまっているんじゃないかと時々思うんだ。
それって生きていてもつまらないんじゃないかな。
だけど泣き止んで、照れくさそうにはにかむ姿を楽しみにしている。
だからきっと、大丈夫。

「先生、も、」
「うん?」
「泣きたくなったらオレんトコ来てね」
「…うん、そうする」

ああ、今日も生きている。

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081122






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