今日の最高気温は32度だと?コノヤロウめ!




大人になれない僕らの強がりを一つ聞いてくれ 3




なんて最低だ。
クールビズだかなんだか知らないが、世の中の連中ときたら
やれ制服は指定の軽装にしろだのエアコンの設定温度は28度までにしろだのいいやがって。
こちとらもっぱら任務は野外だっつの。
ましてやアパートについてるエアコンなんて壊れてるっつの。
設定しようにも扇風機は弱中強しか段階がないっつーの…!

自分で言うのもなんだが、今日はいつもに増して短気な気がする。
…いや、実際そうだろう。
この暑さのせいで、身体中から汗が吹き出しているのだ、無理もない。
早く目的地へと切実に願うオレの思いもむなしく、
太陽は親の敵と言わんばかりにオレの身を焦がし続けた。
かれこれ10分はだらだらと歩き続けている。
歩みは決して遅くはないが、スピードなんて上がりそうにない。
しかし、地味な建物が視界に入ったところでその考えは撤回することとなった。

汗がこめかみから顎にかけて流れ、落ちた。
拭う暇などない。
目的地までの距離、およそ7メートル。
申し訳ないが、シカマルを置いて駆け出した。
だって。
桃源郷は、すぐ、そこ。

ウィーンとじれったく開く自動ドアが小憎らしいが、開いてしまえばこっちのものだ。
造られた涼しさが身体中を纏う。
幸せだ。
安い幸せだなという視線をシカマルに送られようが、関係ない。
あとは此処が騒いでも怒られない所だったら言うこと無しなのに。

「騒ぐなよ?」

シカマルはまるで親のような物言いで、オレの頭にポンと掌を置いた。
まぁ、仕方がない。
図書館なんて、自分にはあまりに縁がなさ過ぎるのだから。




今日は2人とも任務はない。
せっかくの休日をエアコンが使えないあの部屋で快適に過ごすのは些か難しいと踏んだシカマルは、
図書館を理由に避暑の旅に出るとオレに告げた。
そんな、殺生な。
オレと赤丸を差し置いて一人で涼もうなんて、シカマルはなんて白状なヤツなんだ。
暑苦しい部屋で無理矢理抱きつくというイヤガラセに近しい抗議は聞き入れられ、今に至る訳である。
…但し、今日の飯当番と引き換えに、だが。

そこら辺の椅子に座っていたら、シカマルが本やら巻物やらを抱えてオレの向かいに座った。
小難しそうな歴史書が覗く。
オレには到底読む気が起きそうにないその厚さ。
苦い顔をしていると、シカマルと目が合った。

「ん」

差し出されたのは音楽雑誌。
へぇ、図書館ってこういうのも置いてあんだ。
言おうとした言葉は飲み込んだ。
図書館に、オレの声はでかすぎる。

「お前、こういうの好きだろ?」

昔から思っていたし、一緒に住むようになってからは更に思うようになった。
シカマルは、さりげなくこういうコトをする。
そういうトコ、すごくいいなぁと思う。
下手に気を使わなくて済むし、なんだかちょっぴり嬉しい。

「サンキュー!シカちゃんだいすき!」

ちっさく、言ってやった。
その代わり、ありがとうという気持ちをふんだんに込めた笑顔付きで。
シカマルは眉間に皺を寄せながら少し笑って後ろを振り返った。

「あっちに映画とか見れるトコあっから、ソレ飽きたらそっち行ってこいよ」
「おう」

映画もあるんスか!
ちょっと感動。
シカマルが選んだこともあってか、オレの思った以上にここは快適な所らしい。
図書館って、いいな。
ガラにも無く、そんなことを考えていた。




四時間くらい経っただろうか。
オレにしては、もった方だと思う。
雑誌を見終わったオレは、シカマルのいう通り少し離れた所で映画を見ていた。
透明な小部屋っぽいところの中に、テレビが一台、椅子がふたつ。
片方に座ってもうひとつに赤丸を座らせた。
この図書館が忍犬入場可能だったのはラッキーだったと思う。
もしかして、シカマルはそういう所を選んだのかな?
…なんてムシがよすぎることをつらつらと思いつつ、ビデオを取り出した。
前々からレンタルしようと思っていたものだったので、レンタルする手間が省けた。
つくづく自分は運がいいと思う。
ビデオをケースに仕舞って小部屋を出た。

「よっ」
「あ、キバ」

さっき座っているところにシカマルはいた。
どうでもいいが、髪型が特徴的すぎるので後ろからでもすぐに見つけられる。
シカマルは先程持っていた厚いあの歴史書ではなく、違う本を読んでいた。
聞いたところでどうせ自分は読みなどしないだろうが、思うより先に口は開く。

「それ面白い?」
「まぁまぁかな。そっちはもういいのか?」
「んー、丁度見終わったからさ。時間も時間だし」

時計を指差すと、シカマルはそうだなと洩らして本を閉じた。

「あれ、ソレ読み終わってなくね?」
「あー…、別に。また読みに来ればいいし」
「まぁ、そうだけど」
「そん時はまた、お前らも連れてきてやっからよ」

お前、ら。
赤丸がクゥンと鳴いた。
オレはコクリと頷いた。




「…暑っちぃ」
「言うな」

桃源郷を後にしたら爽やかさなんて毛ほどもなくて。
たとえ日が沈んでいようと、未だ猛暑は変わらない。

「アイス買おうぜ、アイス」

コンビニを必死に指差すオレにシカマルは頷き、また創られた冷気に包まれた。
やっぱり、ウチのエアコンは修理すべきだと思う。
こんな涼しさが、あの2LDKには必要なんです。
オレは噛みごたえのあるものがすきなのでガリガリ君(ソーダ味)を買った。
シカマルは爽の抹茶。つくづくジジ臭さが伺える。
でも言わないでおいた。
折角奢って貰えそうな空気なのに、チャラになってしまう。
赤丸は腹を壊してしまうのでアイスは無理だ。家の牛乳で我慢してもらおう。
賞味期限は二日程過ぎてしまっているけれど。

帰りながらアイスを食べた。
袋から冷気が溢れ出す。
暑いので、すぐにアイスが溶ける。
棒アイスのオレは今食えるけれど、カップアイスのシカマルは家まで我慢だ。
お先にすみませんねーと言ってやると、シカマルはコノヤロウという顔をして口を開いた。
汗が額から鼻の横にかけて垂れるのを、オレは見た。

「エアコンのきいた部屋で食べるより、こんなんで食った方がうまくね?」

エアコンの事、シカマルも考えていたのか。
情緒あるシカマルのその言葉に何だか納得してしまったオレが再び暑いと騒ぎ出すのは、それから二週間後のことだ。




*****

暑い日のふたりと一匹。

20050912




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