暑い、夏の日。




大人になれない僕らの強がりを一つ聞いてくれ 2




去年の今頃、二度目の中忍試験を受けたキバは見事に合格を決めて中忍に昇格した。
本当は一昨年の冬には受かっているかもしれなかったのに!と喚いたキバに少々の哀れみを感じた。
火影様が里の復興を優先した為に年に二回しか開催されない試験が開催中止となってしまったのだ、無理もない。
しかし、オレに追いつくのに一年も経っちまったと悔やむキバを宥めるのに一苦労だった。
めんどくせーよ、お前。

そんなキバが中忍になって間もなく、一人暮らしをするという話が持ち上がったらしい。
たまたま自分も同時期に似たような話があったので、キバにそう伝えた。
するとキバは、同居なら嫌な家事も部屋代も半分で済むぜと珍しく気の効いた事を言った。
お前にしては、なかなかの案じゃねーの。
二つ返事で了承し、中忍専用のアパートを借りる事になった。
2人+1匹の暮らしに2LDKは、なかなかのものだ。

そうして始まった二人の共同生活は、今年の夏で一年が経つ。




今日の夕飯の当番はキバだから、きっとまた肉料理だろう。
そう踏んで、ポケットから鍵を取り出した。
ガチャンと鈍くて重い錠の音をさせて開いたドアの向こうは、ひっそりと静まり返っている。
当たり前だ。二人暮らしだもの。
正確には、二人と一匹暮らしだけど。

荷物を自室に放り投げて居間のソファに寝転がった。
丁度手の届く位置に置いてある読みかけの本を手にし、ページをめくる。
場面は中盤、今日で読み終われそうだ。

部屋にはページをめくる紙の乾いた音と、カチコチという時計の規則的な音が響く。
時々蛍光灯が眩しくて目を細めた。
読み始めてまだ5分も経っていない。
話が頭の中になかなか入ってきてくれないので、やっぱり前言撤回。
今日中には読み終わりそうにない。

ふと時計に目を向けると、毎週欠かさず見ているテレビ番組が始まる時間だった。
体を起こして本を横に置き、テレビのリモコンに手を伸ばした。
ブゥンという独特な音の後、青い生物がオレンジュースを飲んでいるCMが流れた。
新作はマンゴーだそうだ。
新しい物好きなキバは、その内買ってくるかもしれない。

落ち着いた音楽が流れ、「本日ご紹介する旅館は」の出だしで番組が始まった。
一旦CMが入った所で、階段を上る足音が聞こえた。
キバだ。




「…なした?」

おかえり、よりも先に出てきてしまった。
だって。
なんだって、そんなカッコ。
髪の毛はぐちゃぐちゃで頬には引っかき傷まである。
キバは視線を泳がせながらちょっとね、とだけ答えて本日の戦利品が入っているとおぼしき木ノ葉マートのビニル袋を掲げた。

「今日は素麺デス」

夏っぽいだろう、と付け加えて誇らしげに八重歯を見せつけられる。
野菜はないのかと聞くと、聞こえないふりをしてさっさと台所へと引っ込みやがった。
コノヤロウめ。

テレビに意識を戻すといつの間にか旅館料理を紹介していた。
豪華なそれを見て、些か腹が鳴ったのは内緒だ。
赤丸が膝の上に乗っかってきたので、頭を撫でてやったらクゥンと鳴いて頭を擦りつけられた。
白い毛がくすぐったい。
名を呼ばれ、オレの手中からスルリと降りた赤丸は主人に従い食事を目の前に『待て』をしていた。
流石は忍犬と言った所か、いつ見てもピクリとも動かない。
ふとキバと目が合い、もうちょっと待ってね、とウインクをされた。
台所がせわしなく音を立てている。
勿論、手伝う気なんてさらさらない。

相手の仕事を取らない、というのは共同生活が始まった当初にキバと2人で決めた事だからだ。
2人でやった方が早いのはわかっているのだが、以前キバが自分の作る料理をやたらと自慢していたので、それを食べてみたかったのだ。
自慢するだけあって、なかなかおいしかったその料理。
なんとなく、自分は手を加えてはいけないような気がした。
キバらしさがなくなるというか、なんというか…
そんな事を言うと調子に乗るだろうから、決して口には出さないけれど。
だから気恥ずかしさを隠す為に『相手の仕事を取らない』という約束を交わしたのだ。
キバは気付いていないだろう。いや、気付かなくていい。
今日の宿はあまり自分好みではないせいか、あまり集中して見れなかった気がするが問題ない。
あと10分ちょいで終わるな、とぼんやり思っていたらキバに声をかけられた。

素麺が氷の入った涼しげなガラスの器に入っていて、今日の食卓はちょっとオシャレ。
薬味は少ないけど今日の分はなんとか持ちそうだ。
帰ってすぐに冷凍庫に入れておいたらしい麺汁はひんやりしてていい感じ。
では、いただきますか。




たわいも無い任務の話なんかしながら素麺をすすったりして。

シンスケのクイズ番組にアホみたいに熱くなっちゃったりして。

オレのパンツどこ!とか騒いで風呂から上がるキバにトランクスを投げてやったりして。




こんな何気ない日常を、オレは望んでいたのに。

あっさりと崩してしまったのは、オレの感情だった。




*****

シカマル視点。

20050828




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