一昨年の中忍試験、合格したのは一人だけ。




大人になれない僕らの強がりを一つ聞いてくれ 1




去年の今頃、二度目の中忍試験を受けたオレは見事に合格を決めて中忍に昇格した。
本当は一昨年の冬には受かっていたはずだったのだ。…多分。
しかし、火影様が里の復興を優先した為、年に二回しか開催されないというのに冬の試験は仕方なく開催中止となってしまった。
お陰でシカマルに追いつくのに一年も経ってしまったのだ。
この一年、どうしてくれる。

オレが中忍になって間もなく、いい機会だからと家を出て一人暮らしをするという話が母親の口からついて出た。
家事関係がお世辞でも好きとは言えないオレは断固拒否をしたが、
シカマルが自分も一人暮らしの話が出ていると言ったので、それならと同居の話を持ちかけた。
同居なら、嫌な家事も部屋代も半分で済む。
うーん。我ながら、なんてナイスアイディア。

そうして始まった二人の共同生活は、今年の夏で一年が経つ。




そんな今、オレはとても迷っていた。
今日の夕飯の当番はオレで、メニューは肉を沢山入れたカレーのつもりだった…のに。
近所のスーパー『木ノ葉マート』では毎月1日は季節に合った食材の特売日だという事をうっかり忘れていたのだ。
今日は8月1日、素麺一箱3割引。
なんてお安い!
麺汁も今日なら4割引と大変お買い得だ。
しっかり主夫してるじゃないかと思われがちだが、決してそうじゃなくて。
全てはあの母親を持つシカマルのせいにすぎない。

普段はボケーっとしてるシカマルは、こう見えて案外厳しんだ、コレが。
部屋がちょっとでも散らかってたり無駄遣いをしたりしようものなら…考えただけで、恐ェ。
まぁシカマルはオレと違ってそこんトコしっかり育てられてるだろうから、怒るのは当たり前っちゃ当たり前かもしれない。
そんなシカマルを、オレは時々見習わなきゃなぁって思うんだ。
だって同い年なのに、オレのが子供っぽかったら…やっぱイヤじゃん?

そんな訳で、さっきカゴに入れたカレーのルー(中辛)がオレに向かって「買って」と言ってる気がするけど。
悪いな、カレー。
オレはシカマルに誉められたいお年頃なんです。
また今度な、と呟いて緑のパッケージを棚に戻し、主婦たちの群がる特売コーナーへと突っ込んでいった。




「…なした?」

ボロボロになって帰っで来たオレを見て、初めて発したシカマルの言葉がコレだった。
無理もないだろう。
読んで字の如く、ボロボロだったのだから。
たかだか夕飯の買い出しに行っただけのはずなのに、まったくおかしな話だ。
主婦に紛れて素麺争奪戦々を繰り広げて揉みくちゃにされただなんて、かっこ悪過ぎてとても言えない。
ちょっとね、とだけ答えて本日の戦利品が入ったビニル袋を掲げた。

「今日は素麺デス」

夏っぽいだろう、と付け加えて誇らしげに八重歯を見せつけた。
野菜はないのかと聞かれたが、聞こえないふりをしてさっさと台所へと引っ込んだ。

木箱に入った素麺を七束ほど取り出す。
育ち盛りの男2人なら納得出来る量だろう。
赤丸には犬塚家特製の専用ドッグフード。
賞味期限が明日までのミルクを添えて赤丸の前に置き、『待て』をする。
その間、沸騰した鍋に素早く素麺を入れる。
勿論、以前シカマルに教わった方法で麺を散らしながら。
この方が麺同士がくっ付かないんだってさ。…よくわかんないけど。
麺を入れた後に沸騰したら少量の水を入れる。
これも勿論以前シカマルに以下省略。
この方が麺が締まるんだってさ。…よくわかんないけど。

せわしなく台所で動いているオレと引き換え、シカマルはソファにもたれながらキヨシが出てくる旅番組を呑気に見ている。
相手の仕事を取らない、というのは共同生活が始まった当初にシカマルと2人で決めた事だから仕方が無い事はわかってるんだけど…
2人でやった方が、絶対早いし楽しいと思うんだけどなぁ。
キヨシの出番はあと15分程で終わる。
毎回色んな旅館に泊まるキヨシを見て溜息をつきながらシカマルが「ちょっと羨ましいんだよな」と言ってたのを思い出したが、
火をつけっぱなしで放置していた素麺が吹き出したところで意識は台所に戻った。

素麺を氷の入った涼しげなガラスの器にいれちゃったりして、今日の食卓はちょっとオシャレ。
薬味は少ないけど今日の分はなんとか持ちそうだ。
帰ってすぐに冷凍庫に入れておいた麺汁はひんやりしてていい感じ。流石、オレ。
箸を揃えて麺汁を小器に注いで赤丸の『待て』も解いてソファにいたシカマルをテーブルに呼んで。
準備は万端、さぁ召し上がれ。




たわいも無い任務の話なんかしながら素麺をすすったりして。

シンスケのクイズ番組に熱くなっちゃったりして。

オレのパンツどこ!とか騒いで風呂から上がったりして。




こんな何気ない日常を、オレは望んでいたのに。

あっさりと崩してしまったのは、オレの感情だった。




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キバ視点。

20050822




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