9.鏡

死んでいると、鏡には映らないと聞いた事がある。
別に、構いやしない。

朝の何気ない一時。
君はもうすぐ学校へ行く。
ブラシが髪を通るとするすると黒髪が落ちる。
その黒がとてもキレイだと。
後ろ姿を見つめたまま、思う。

「あ、おはよう」

振り向かぬまま、それでも声は届いた。
なんということだ。
オレから朝の挨拶をしようと思ったのに。
何で気付いたんだマイハニ−。

「おはようひめのん」

目の前の鏡にはひめのんがひとり。
声は届いても見えぬ境界線がそこにはある。
超えてはならない。
超えては。

朝の光の粒が、鏡に反射して彼女に当たる。
キラキラしているように見える。
光を反射するんだ。
生きているから。
それに比べてオレは、反射どころか鏡にすら映りゃしない。

「何でわかったの?って顔してる」

やはり振り向かぬまま、声が届く。
ああ、とだけ返すと彼女はクスリと笑った。
黒髪が揺れる。

「だって」

どうしよう。
彼女を愛したい理由をまた一つ見つけてしまった。
お願いだから今はまだ振り向かないでくれ。

「私には」

見られたくない。

「みえてるんだから」

満面の笑みを。





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20060615




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