キバが、グレた。

理由はわからない。
昨日はいつも通りだったのだ、彼は。
それが今日になってこんなになってしまった。
驚くだろう、誰だって。

いつもの赤黒いのとは違い、何と言うか、一見チャラチャラした感じの。
あまりに見慣れない光景なので、ついまじまじと見てしまう。

「ん、なに」

視線に気付いたキバは、多分朝から色んな人間に言われたであろう台詞を待った。
お前も言うの?なんて顔をしてさ。
いつもよりちょっと不機嫌なのは勿体無い。
何が勿体無いだなんて、言ってやらないけど。

「いやー、腹減ったなぁと思って」

食ってきたばっかじゃねーのかよ、と突っ込まれ、朝食いっぱぐれてきたと言ってみた。
アホだなあと、ポーチから非常食を取り出し手渡された。
本当はきちんと食べて来ましたごめんなさい。
故に催促していた訳ではないのだが、折角なのでありがたく受取り、受取った時にまた、チラと上を見る。
少しばかり目が慣れて来た所で気付いてしまった感情を、乾パンと一緒に飲み込む。
いやぁ、コレは駄目だろ。言えねぇなあ。
ニヤけそうになる顔を必死に堪える。

その髪に映える赤が、こんなにもキレイなんだと。

いやぁ、流石にこれは駄目だろ。言えねぇなあ。
堪えすぎて、笑っているのか苦しんでいるのかよくわからない表情になっていたらしい。
咳き込んでいるのかと少しばかり本気で心配され、手渡された茶をとりあえず一口。

「うん、じゃあオレそろそろ任務だし、行くわ」

いつもより難しそうな顔で、最後まで髪について触れなかったキバは少し遠くをみてそう言った。
確かに自分から言うような事でもないけど、お前だったらどうよとか聞くキャラでもいいだろうが。
何をそんなに不機嫌なのかは知った事ではないが、折角のそれなんだ、笑った顔も見せやがれ。

「おー、頑張れ。オレもあと一時間くらいしたら集合だし」
「ん、じゃ」

だから擦れ違い様に、耳元で。

「似合ってる」

言うとしまった、笑った顔が見えない事に気付いた。

勿体無い。





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20080805

絵・りんこさん 文・森内




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