目の前の女は紙パックからはみ出たストローに歯を立て、笑う。
悪戯につぶされたそれに、不覚にも目を奪われた。





『昼の放課後』





世の中はどうやらバレンタインという菓子業界の戦略行事らしい。
週休二日制なんて関係のないこの学校が今日に限って賑わっているのはその為だろう。
道理で一日中いやに視線が痛かったわけだ。合点がいった。
もっとも、それに気付いたのは放課後の事だったのだが。

「サスケくんって、モテるけどモテないのよねぇー」

普段ならみんな早々に帰宅するのでガラガラのはずの教室はまだまだ人がたくさんいた。
そんな人たちすら帰った放課後。
土曜の昼は一番腹が減るというのに、委員会の帰りを待つ羽目になった放課後。
何故、こんな事を言われなくてはならない。
気を抜けば腹が鳴りそうなんだ、気安く声をかけないでほしい。
いのはキーホルダーやらなんやらでごちゃごちゃしたバックからお菓子を取り出す。
差し出されたキャンディー。
ありがたく一つもらう。

「…何が言いたい」

レモン味を口の中で転がしながら、別段聞きたいわけでもないのに問う。
バレンタインだっていうのにチョコの一つもらえないこの男に、今更、と。

「昔のサスケくんにだったら私、あげてた。っていうか、あげたけど。でも」

サクラと二人して、キャッキャしながらもらったチョコレート。
手作りとかなんとか言っていた気がする。
多分、少なからず嬉しかったのも覚えている。
でも?

「今のサスケくんには、あげられないわー」

そう言って、購買で買ったと思しきバンホーテンのココアを二口。

「なんでだよ」
「え、ほしいの?私から?」
「茶化すな」
「だって」

目の前の女は紙パックからはみ出たストローに歯を立て、笑う。
悪戯につぶされたそれに、不覚にも目を奪われた。

「本当に欲しい人から貰わないと、意味ないじゃない」

土曜の昼は一番腹が減るというのに、委員会の帰りを待つ羽目になった放課後。
半分くらい溶けたレモンキャンディーが静かに割れる音がした。

「だから、何だ?」
「だーかーらーモテないのよー。もったいなーい」

さっさと帰って構わない日に、わざわざ人を待っている。
その理由は今日渡すものがあるからと念を押されたからであり、決して。

「別に、モテなくていい」

決して、そういうわけでは。

「あ、そー。じゃあ私が貰っちゃおうかな。サクラの」
「…え?………あ」

多分、ない。





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2008????




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