仕方ないんだと言い聞かす。
それ自体が馬鹿らしい事も忘れて。





『帰り道』





文化祭の話し合いという名目で、学級委員長達は貴重な放課後を会議に使う。
それはもう仕方のない事だと諦めて大人しく暗くなった校門を出た。
文化祭の担当教師の夕日紅は危ないからと女子生徒をできる限り自分の車に詰め込んだ。
それでも女子が全員乗り切れるはずも無く、比較的家の近い者は男子生徒に送ってもらえという事で。

以上のように長々と説明できたのはお互い特に会話する内容を持ち得ていないからだ。
少し距離をとって歩く。
長い髪が揺れる。
それを友達でも、ましてや恋人でもない位置から見る。
まかり間違ってもストーカーではないのであしからず。

歩くのが遅いのと、前を歩くのに抵抗を感じるという理由で先ほどまで数歩後ろを歩いていた。
けれどもそれでは家近くまで送っている意味がまるでない。
もし、万が一攫われるようなことがあってみろ。
責任は誰にある?

「…日向、」

名字を呼ぶと、ビクリと肩を揺らして「はい」と小さく答えた。
少し距離をとって斜前、たった一歩か二歩ほど前を歩く日向ヒナタ。
騒がしい女とは違う、大人しくて、控えめで、自己主張が出来なそうな、弱い存在。
けれども、とても強い眼差しをしている事を知っている。

何故声をかけてしまったのか、自分でもよくわからない。
そのまま何も話せずに黙っているのは気が引けるのだが、いかんせん話題がない。

サクラが「ヒナタの代わりに私が」なんて言っていたが家が逆方向だった。
自分としては、送るのなんて誰でも構わなかった。
いや、サクラだったら一人で勝手に喋るので変に気を使わなくてもいいかもしれない。
それなら多少うるさくても我慢できる。
何故日向に気を使わなくてはいけないのか、のみをふつふつと考えていると、自然と足取りは早くなる。

「あの…、サスケ、くん…」

言われ、振り向く。
ああしまった、気付かない間に追い越してしまっていた。

「………その、…送ってくれて、ありがとう」

言われ、仰いだ。
大きな門だ、これが噂の日向家。
気を使わなくてはいけない理由がわかった気がした。

「お、おう」
「気を付けて、ね」
「ああ」

多分会話を自分から終われないタイプなのだろう。
一通り社交事例を終わらせても家に入らないヒナタを見て理解してしまった。

「じゃあまた…学校で」
「うん。また、学校で」

背を向け軽く手を上げる。
それだけして、角を曲がって多分家に入ったんだろう音を確認し、電信柱に寄り掛かった。
まず、大きな溜め息を一つ。
そして眼を閉じ、息を大きく吸い込む。

揺れる黒髪を思い出す。
困ったように下がる眉を思い出す。
俯いた時にできる睫毛の影を思い出す。
言葉を探すように振れる瞳を思い出す。

変に緊張したせいだろう、暑い。
熱いのだ。

「仕方ねぇんだよ」

一人呟く。
帰り際は本当にお互い何も喋らなかった。
クラスも同じになった事はないし、部活も違う。
接点など何もないのに、帰る方向が同じだからという理由だけなのだ。

誰も聞いちゃいないのに、まるで言い訳のように頭の中を横切る。
言葉達は今更になって、自由気ままに駆け巡る。
卑怯だ。


風が冷たい。
今夜は冷えると思い、足早に帰った。





*****
2008????




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