頭が湧いたみたいだ。
思考が追いつかない。
それは決して照りつける太陽のせいではなく。
人に触れられるのが極端に嫌いだ、と、自分で思う。
そんな能力はないが、近くにいると心の声が聞こえてきてしまいそうで。
それは幼少時代からの日常がそうさせたのかもしれない。
夜行にいても、心の声どころかそれは音声として耳に入ることがしばしばあった。
だから、こそだ。
それがどうだろう。
今、目の前にいるのは確かに人であり、尊敬するあの人ではない。
似ているのは、僅かだが眉、そして。
「…なんか、言えよ」
杞憂を含めた声で我に帰った。
ぱちくり、澄んだ目は2、3度上下する。
人の目をこんなに近くで見たのは極めて久しぶりだ。
「退け。暑苦しい」
意味もなく震えそうになる声を押し込め、発した。
すると眉間は距離を詰め、唇も少しだけ上を向く。
「やだね」
「もう一度だけ言う。退け」
今度はやけに素直に立ち上がり、つまんねーのと零してこちらを振り向いた。
逆光で表情が見えない。
昼間の学校だ。
それなのに、夜の。
妖を相手取る時の、その時の雰囲気に酷く似ていた。
「何が、怖ぇんだよ」
語尾は笑ったのか怒ったのか知らない。
そんなことはどうでもいい。
「…別に、なにも」
「そ」
だって何も怖くない。
失うものも得るものもないこの場所にいることは、別段何も感じない。
それにただの任務だ。
闘う為の日常。
日常が戦場。
それでいい。
そこに居場所があるのなら。
己の居場所があるのなら。
「オレはさあ、怖いよ」
言う声はどこかで聞いたことがある気がする。
怖いという言葉がまるで似合わない、何かの声に。
だから、だろうか。
先程の距離の理由は。
不快を感じなかった理由は。
「何が。…烏森か?」
「や、違う。そんなんじゃねーけど」
「じゃあ何だ」
馬鹿馬鹿しい。
真面目に返す自分も。
ちゃんと答える相手も。
片方は座り、片方は立っているこの状況も。
青い空も、白い雲も、飛ぶ鳥も、一分置きにカチと鳴る時計も、全部。
勘違いをしてしまう。
「んー…わかんね」
この世がとても、平和だと。
2007.09.07
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