学業の為に烏森に来た訳では無い。
ましてや馴れ合う為に来た訳でも無い。
頭領に推薦されて、仕方なく派遣されたようなものだ。
だから決して、決して馴れ合うつもりなど。



いつものように屋上へと向かう。
夜の為に睡眠時間をとらなくてはいけない。
しかし学校にもルールというものはあって、あまりに出席が無いと咎められる。
術者ではないので式神を代わりにはできない。
そんな時、戯れにも便利だなと思ってしまった事が少しばかり悔しい。

梯子を上ると先客は既に枕を持参し、結界を張って熟睡していた。
見た目ほんのりと色付く透明な立方体は、それなりに遮音遮光を施してあるらしい。
今日のように眩しいだけならまだしも、暑い日はさぞ快適だろう。
互いのテリトリーは以前折り合いを付けたので空いている場所にゴロリと寝転がる。
結界の方を見やると枕を抱いて寝返りを打った。
うーん、と唸る声は聞こえている。
遮音壁を兼ねているのではなかったのだろうか。
柔い疑問はどうでもいい事と同じで、すぐに消えた。

目を瞑ってもなかなか寝つけず、どうしてかと思い寝返りを打つと原因がわかった。
ポケットに入れた携帯がゴツゴツして非常に不快だったのだ。
取り出して一度開き、閉じた。
いつでも連絡できるようにと常に持ち歩いているからボディは既にボロボロだ。
待受画面なんて設定はしていないからデフォルトのまま。
勿論ストラップも付けていない、ただの携帯電話。
掌に納まるそれを見つめ、いつまでこうしていればいいと思う。
いつまででも、だなんて冗談混じりで言われたのは先日。
自分はどうしたいのだろうか。
正直ここに居たいとは思わない。
つまりは夜行のほうが良い、という事だろうか。
良いか悪いかと考えると俄然『良い』を選ぶだろうが、『良い』と言うには何か。
何か、違う気がした。

「志々尾ぉ」

間の抜けた声が聞こえ、振り向く。
眠たそうに目を擦りながらボサボサの髪の毛を掻きむしる姿は兄と似ても似つかない。
それでいい。
兄弟だなんて、初めから認めていない。

「何だ」
「お前、いつ来たの」
「…さっき」
「ふーん」

同じ場所で寝ていても、同じ仕事をしていても、あまり会話はしない。
もともと合わないと思っているし、馴れ合う必要もないからだ。
それがわかっているのかいないのかは定かでは無い。
ただ、空気の読めないやつだという事はこの数日でよくわかった。

「な。何か話しようぜ」
「断わる」
「何でだよ!折角起きてやったんだからさぁ、」
「じゃあ寝てろ」
「暇なんだよー」

見るな。

「教室戻ればいいだろ」
「式置いてるからいいの」

射る様な視線が痛い。
何でそんなに人を真直ぐ見れる。
見るな。
その目で見るな。
頼むから。

「オレに構うな」
「やだね」

でないと、酷く。

「…何なんだよ、お前」

イライラ、する。

「………構うよ」
「あ?」
「オレが構いたいんだよ!お前を!…っわかれ、よっ…!」

…なんで。
どうしてこいつはこうなんだ。

学業の為に烏森に来た訳では無い。
ましてや馴れ合う為に来た訳でも無い。
頭領に推薦されて、仕方なく派遣されたようなものだ。
だから決して、決して馴れ合うつもりなど。

「…っば…っか、じゃねーの……」

サラサラ無いのに。
嘘だろう?
腹の中がザワリとする。
腹から出た一本の線が胸を這い、喉元まで込み上げるような。
この、感情は。

ポツリと呟いた言葉は届かなかったらしい。
わかったか!なんて言って無遠慮に隣に座るから驚く。
きっとわかっていても、わかっていなくても同じなんだろう。
わざわざ線引きをしているのに、そんなもの最初から無かった物のように振る舞うのだ。
なんて傲慢で、我が侭で、脳天気なんだろう。
そしてわからないのは自分自身だ。
何故、それを許してしまっているのだろう。

傲慢で、我が侭で、脳天気な野郎は口を開く。
自分はというと、勝手にくっちゃべっているのを横目に給食になるまでの小一時間。

記憶にも残らない、どうでもいい話を聞く羽目になる。





2007.09.02
thanks:リライト
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