その小さな小さな掌が。
憎くて憎くてしょうがない。



夜の務めを終えて帰り支度をしている所を呼び止める。
遠くから帰るよ、と呼ばれてたのに適当に見繕った嘘で返答をしたのはありがたい。
斑尾も気配で気付いていたのか出て来ない。
うん、よくわかってる。

近づくと少しばかり後ずさりするのは変わらない。
構わず腕を掴み上げ、元気?なんて悠長に聞いてみた。
何の用だよと腕を振るのはあまりに思った通りの反応で。

「お前、面白いね」

意味が分からないと眉を寄せる顔も、また思った通りの反応だった。
掴んだ腕をそのままに、少々乱暴に唇を寄せる。
するとその目は酷く揺らいだ。
恐れているんだろうか、自分を。
恐れているんだろうな、自分を。

「…なんで、兄貴は」

儀式の様に、右の手に、唇を寄せるその様は。
兄弟ではまずない光景で、末恐ろしいに違いない。
何故いつもこんな事をするんだという疑問はいつだって答える準備をしているのに。

舐めるでもなく啄むでもなく、ただただそこに唇を寄せる。
行き場のない指が小さく震える。
行き場のない視線が空を横切る。
嫌なら嫌だと言えばいいのに、結局はこの行為を受け入れている。

「オマエ、なんか、」

そしてまた、決まってこう言うのだ。

「嫌いだ」

何度同じ行為を繰り返し、何度同じ言葉を繰り返し。
それでもきっと、変わらない。
兄弟である事も、泣きそうな目も、この行為を良しと思っていない事も。
何一つ、変わらない。
だから思わず笑いそうになった。

「何だ、少しは意識してくれてるんだ」
「ん、んな訳ねーだろ!バカじゃね−の!?」

ああ。
本当の意味を、わかっていないんだなぁ。

嫌いだって思う気持ちも。
好きだって思う気持ちも。
意識しているからこその、気持ちなのに。

ねぇ、お前はさ。

「バカじゃない。したいと思ってるからしてるだけ」

オレの事、意識してるんだろ?

「するなよ!」
「するよ」

だから、するんだよ。





2007.10.21

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