己が生きる上で必要なものはなんだろう。

空気。
水。
太陽。

栄養。
社会。
こころ。

日常。
変動。
三大欲求。

金。
本能。
そして、君。


互いの存在が空気みたいだ。
沈黙が苦痛じゃない。
気を使うことをしないわけではないのだが、気を使っている気がしない。
それで許せている。
許してもらえる。
負の感情がそんなにないからこれはきっと『気に入っている』部類に入るのだろう。
自分とは年齢も身長も一回り以上離れているというのに、むしろこんなにも引かれている。
環境だって似ていない。
趣向だって少し特殊なところで結びついているくらいだ。
性格だって、人並みの部分しか同じでない。
それなのに、こんなにも。

任務帰りの道で、見慣れた姿が目に飛び込んできた。

「久しぶり」

自分が言おうと思ったまさにその時に、声をかけられた。
長く会っていなくて、どこかぽっかりと空いていた穴がじんわりと塞がってくる。
自分も同じ言葉を投げ返す。

「ああ、久しぶり」

二、三話をし、じゃあと別れた。
擦れ違った時の懐かしいにおい。
まさか一昨日ぶりと、誰が思えよう。


中毒性のあるものってなんだろう。

ニコチン。
タール。
セックス。

薬。
ギャンブル。
スリル。

金。
大切なもの。
優越感。

趣味。
思い込み。
そして、君。

付き合っている訳じゃない。
だって男同士。
そして15歳差。
なかなか無理がある。

恋愛感情を抱くとしたらそれはきっと勘違いだ。
恐怖体験のドキドキが恋愛のドキドキと間違ってしまうような。
『気に入っている=すき』を『すき=恋い焦がれる』と間違ってしまうような。
相手が好意を抱いてくれているのを知り気分をよくして自分も同じ気持ちになり、それを置き換えてしまうような。
そしてオレは知っている。
勘違いが、恋だの愛だのに派生することを。

ただ、もしこの感情をそれだと言うのなら、今はまだ発展途上中だ。
プラトニックでもいいと思っているからではなく、多分心からすきで近くにいてほしいと思っているから。
大事な人なんだ。
これは男女の垣根なく抱ける感情。
心から守りたいと思う。
もし相手がそんなのガラじゃないよと思っていても、これはオレのエゴだから。
一緒に生きたいんだ。
そんな未来にまるで後悔がない。

互いに結婚したりして、子どももできて、時々将棋を打って、茶をのんで一息ついて。
気持ちのいい風が吹いて、ああ、季節は巡るなぁ、って思って。
ハゲの心配して、白髪の心配して、そろそろたたなくなってきたんだよねとか心配して。
過去の青さを二人して笑いあって、懐かしがって、しんみりしちゃって。
下らない事で喧嘩して、下らない事で笑いあって、そんな日常が大切に思えて。

そんな風にすごしている時間がきらいじゃなくて。

「アスマ」
「なした?」
「誕生日おめでと」
「サンキュ」
「生きててくれてありがと」
「…おう」
「生まれてきてくれてありがと」
「…ん」
「先生として出会ってくれてありがと」
「…シカマ」
「今まで、ありがと」
「おい、ちょっと待」
「でもって。これからもよろしく」

視線が合った。

「当たり前だ」

別にもっと遅く生まれてたらとかもっと早く生まれてたらとか思ってる訳じゃない。
別にどっちかが女だったらとか思ってる訳でもない。
だって、もしそうだったら出会ってなかったかもしれない。
15歳差の先生と生徒。
男同士で互いに将棋がすき。
それで、十分じゃないか。


本当に必要なものは、失わないとわからない。
それはきっと空気だったり、酸素だったり、水だったり、色々あるけれども。

失わなくてもわかるものだって、あるんだ。

あるんだよ。




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20061022




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