気付いたのは、極少数だと思う。

あの日以来、シカマルの髪留めが変わった。
黒いものになっていたのだ。
それ以外はまるで普段通り。
いのみたいに強がってやけに明るく振る舞う訳でもなく。
チョウジみたいに見るからに落ち込んでいる訳でもない。
本当に、普段通りなのだ。

だがオレは知っていた。
シカマルの目が笑っていない事を。
ここ3日、一睡もしていない事を。
どうして、だなんてあまりに愚問すぎて出てこない。
あんなやつれた姿を見ていると、ついつい声をかけてしまいたくなる。

バカか、オレは。

そんなことをしたって、まるで意味がないというのに。
今のオレじゃ、シカマルの心を埋めてやる事なんてできやしないのに。
そう思う事はあまりに調子が良すぎやしないか。
今のオレでなくても、シカマルの心を埋めてやる事なんてできやしないのだ。

「バカだよな、アイツ」

慰霊碑を背に、言葉を零した。
返事は帰ってこない。

「眠れないんじゃないんだよ、アレ」

構わない。

「寝ないんだ」
「眠ったら、アイツの『今日』が終わるから」
「アイツはまだ、お前がいる日に生きてんだよ」
「聞いてんの?」

「アスマ」

「…聞いてるよ」

返事はくぐもっていた。
体躯のいい暗部の面をした男が、慰霊碑の前で佇んでいた。

「だったら」
「オレだって何もできやしねぇよ」

風で髪がゆらゆらと揺れる。

「接触を禁止されてる。まぁ死んだ事になってるから接触もクソもねぇけどな」
「…病み上がりを任務に出す上のアタマがおかしいんだよ!」
「滅多なこと言うな。オレ等は」
「『忍、だから』?」

ひゅう。
風が、落ち葉を踊らせる。

「…駒はオレだけで十分だから」

シカマルがあんなになっても?
そう思えるっての?
自分だけ、って?

言いたい事が多すぎて、でも何も言えなかった。
被害者なのだ。
彼も、シカマルも。
そして自分も。

「…時間だからもう行くな」
「………ああ」
「カカシ、」

ざわざわと木の葉が擦れる音がする。
上手く聞き取れただろうか、自分は。

「……、…頼む」

気配が消えた。

嫌だ。
嫌だよ。
そんな話は聞きたくないよ。

あのコに必要なのは、アンタでしょうが。

アンタ、でしょうが。




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20061231書
20071012上





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