貪るように寝入っていたので時計の短針が10と11の間を過ぎかけている事に気付かなかった。
アスマが掛けてくれたのだろう、普段はベッドにあるはずの毛布が暖かい。
ソファはまだ自分の体温が籠っていて気持ちがよく、とてもじゃないが出れそうにない。
そんな折、先月買い替えたばかりの真新しいエアコンが視界に入り、おーいとこちらを呼んだ。
最新すぎて使い方がわからないからと説明書も読まずに放っておかれた不憫な彼のリモコンを探す。
すぐに見つけたが、壁に取り付けてあるその距離を計って諦めた。
ただでさえ冷えるこの時期、少しでも暖を手放したくないのだ。
数歩でも妥協はできない。
ごめんな、できればお前に働いてほしいんだけど、オレが働きたくないんだ。
心の中で謝罪し、説明書なんてとうに仕舞い切っているだろう家主の気配を探す。
寝ている所を無理強いして起こせない優しさは認めてやるが、放っておくのは違うだろう。
釈然としないまま、またソファに寝転がる。
家は広く、声を上げて呼びつけるのも面倒だったから探すのは諦めるしかない。
覚醒してしまい、部屋の冷気が気になり出し始めたのでしっかりと毛布にくるまる。
いつもなら15くらいの音量が3くらいになっていたテレビのざわつきも今は心地良い。
テレビはそのままに、頬を刺す冷たさと体を包む暖かさに安堵していた。

「おー、やっと起きたか」

髪の毛の水滴をタオルに移す作業をしながら湯気を出し、アスマはリモコンを投げた。
あの、できれば丁重に扱って頂きたく…
箱入り息子の声なんて誰も聞き取れない。

「頼む」
「任せろ」

最新と言えども使い勝手なんて差程変わらないだろう。
表示された文字を頼りに適当にピッピと押していると、待ってましたとばかりに口を開いた。
所詮こんなもんだろ、機械なんて。

「シカマル」
「ん?」
「ちべたい」

手を当てていたアスマは文句を垂れる。
前言撤回。
ごめん、やっぱオレも無理だ。

「あーもういい。今度説明書見してな」
「…おう、探しとくわ」

運転停止ボタンを押すと、フゥン、と悲しげな声を出してエアコンは止まった。
寒い部屋に冷風をプラスしてしまったので先程より寒く感じる。
早々に切ったのでエアコンの力はまだ発揮されていない筈だから、多分感じるだけだろう。
それでもやっぱり、寒いもんは寒い。

アスマが隣に座り、何をするかと思いきやいきなり毛布を剥いだ。
久々の外界との接触により、背筋が震えて鳥肌が立つ。
ああそうか、これがいじめってやつかー。
自分の顔は見れないから勘にすぎないが、ものすごいであろう形相でアスマを睨み付けた。
もっと若い頃の自分だったら、多分迷わず「死ね!」と叫んでいただろう。

「寒いのはお互いなんだからな」

寒くて固まってしまった体をソファから一旦退かして股の間に収められて毛布を被る。
無駄のない動きのお陰でまた暖かさが復活しました。
暖かいっていいですね。
でもこの体勢はおかしいですね。
湯たんぽに包まれている、といった状況が正しいだろうか。

風呂上がりの人間ってこんなに暖かいんだ。
汗臭くもなくタバコ臭くもない、風呂上がり独特のにおいもなんだか安心する。
湧いた言葉は投げ捨てて、今はただただ浸っていたい。



「おー、やっと起きたか」

落ちるように寝入っていたので時計の長針が12を過ぎかけている事に気付かなかった。
寝ている所を無理強いして起こせない優しさは認めてやるが、放っておくのは違うだろう。
未だに音量が3と思しきテレビのざわつきが今度はヤケに耳につく。

「…アスマ」
「んー」
「起こせよ」
「悪い、オレも寝てた」
「嘘つけ」

若干の苛立ちを力に蹴飛ばすように毛布からすり抜け、冷える廊下を過ぎて風呂場へ向かう。
瞼を擦りながら髪の毛をわしわしと洗い、体を洗い、出る頃には覚醒しきっていた。
今なら廊下だってゆっくりと歩いていける。
身に纏った温度をまき散らしながら部屋に戻る。
アスマは毛布を他所に置いて、音量が3のままのテレビを見ていた。

毛布の暖かさを知っていながら何故それを使わないのか。
問う。
一人で使うより二人で使った方がいいだろう?
不足はなかったが、答えに甘えが生じてしまった。

故に、翌日ソファの上で盛大に鼻を啜りながら後悔をする羽目となる。





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20081210




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