生まれてきてくれてありがとう。
すきになってくれてありがとう。

…弱くて、ごめん。


全て伝えそこなってしまった。
言いたい事全部、腹ん中に仕舞い込んで。
今はもう遅すぎた。
何もかもが遅すぎた。

いつだって後悔ばかりだ。

それでも言おう。
ごめんねをひとつ。ありがとうをふたつ。

貰ったものはとても多い。
多すぎて、自分が何もやれなかった錯角に陥る。
実際何をしてやれた?
大したものが浮かばない。
女々しい事を言えば、自分の『ハジメテ』をやったくらいか。
男相手で。
そして人生の中でも。

ふーっ、と大きく息を吐いた。
空を彷徨う煙草の煙を視線だけで追う。
これで出て来たらさぞ滑稽だろう。
けれども半分本気で願った。

この姿を見てどう思っただろう。
いや、『見て』というのは正しくないかもしれない。
あれは求め過ぎた幻覚だろうから。

怒るだろうか?
悲しむだろうか?
喜ぶだろうか?

それとも…

さわさわと静かに森が揺れる。
月は雲に隠れてよく見えないが、おそらく下弦の月だろう。
肌寒い季節だ。
ぶるりと震え、まだろくすっぽ吸っていない火を携帯灰皿に突っ込んだ。
アスマのすきだった銘柄を墓前に添えてやるのだ、と誰かが寂しげに言っていた。
自分は墓参りなんて行かないし、毛頭行く気もない。
墓なんて無くていいのだ。
そんな所に用はない。

墓とは死者の為にあるのではない。
残されたものの為にあるのだ。

それに自分に墓は必要ないと思う。
そんな所で思い出に浸ったって意味がない。
化けて出て来てくれる訳でもない。
ましてや、そこで待っててくれてる訳でもない。
輪廻なんて信じちゃいないが、彼は天国へも地獄へも行けない。
来世の準備なんて、できない。

だって、こんな憶病者を放っておくなんて。
優しいアスマには出来やしないのだ。

「…………ごめん」

小さく。
小さく、呟いた。

背負おう。
大きな罪を。

この命ある限り。




*****

20070126




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