いつもみたいに寒くて、でも陽射しがちょっぴり暖かい昼過ぎ。
トロントロンな瞼をどうする事も出来ずに、窓際の席で机に突っ伏す。
ふ、わーぁ、と噛み殺しもせずに口を大きく開けた欠伸のせいで、喉がカラッカラになりかけた。
お前はアホだなぁとキバがペットボトルを差し出す。
水とか持ち歩いてる男ってかっこよくね?とよくわからない美学を語られてから早1ヶ月。
彼は未だにその美学を信じ切っているようだった。
きっと今年中には飽きるだろうが。
ありがたく受取り、遠慮なんて今更と、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴ、止められるまで飲んだ。

「今日、部活は?」

没収したペットボトルを振り回しながらキバは問う。
それに何と返したのか、もう覚えていない。
覚えていたのは透明なペットボトルの中でキラキラ踊る水だけ。
いつもみたいなキバの大きな口と、尖った歯と。

「お疲れ、ちゃーん」

後ろから声をかけられて正気に戻る。
辺りは一面真っ暗というに近い。
校門を控えめに照らす街灯が、オレができるのはここまでだぜ、とばかりにチカチカしている。
そろそろ電球を交換するべきだと部活帰りに毎回思い出し、毎日忘れる。

覚えていたのは透明なペットボトルの中でキラキラ踊る水だけ。
いつもみたいなキバの大きな口と、尖った歯と、細く射るその目だけ。

「キバ、お前今日部活は」
「無いって言ったじゃん、昼に。あーマジめっちゃ寒かったんだけど」
「…だろうよ、今日の最低気温何度だと思ってんだバカ」

マフラーを捲いてたって、手袋をしていたって、ホッカイロを持っていたって。
どうみてもバカ野郎だ。
今し方部屋から出て来たとは思えない顔色。
なんでそこいんの、とか、誰を待ってたの、とか。
あまりに愚問すぎやしないだろうか。
思い上がってもいいのなら。

「んな寂しー事言うなよォ、折角待っててやったんだから」

雨がちらちら振っていて、でも小雨だから傘を差すほどでもない。
二人して小さく濡れ、風邪引くんじゃないかとかいう心配なんてせずに坂道を上る。
傘を腕に引っ掛けポケットに突っ込んだ掌でホッカイロを遊ばせる。

曲り角、街灯が減る細い路地。
グン、と腕を持っていかれそうになるほど強く引かれ、バランスを崩す。
お、わ。
間抜けな声が、小さく。

「シカマル、」

見栄を張った豪勢なイルミネーションでチカチカ発光している家が、遠くに見える。
でも今はそれ以上に、キバのキラキラの目と、冷たい鼻先が、近い。
近い。

「な、に」

瞬間、呼吸の仕方さえ忘れてしまう程。
寒いとか、外だとか、すべてがどうでもよくなってしまう程。

そんな頭の螺子がどこかへ吹っ飛んでしまうような、

「この後のご予定は?」
「…特に、何も、ない」

クリスマスが、始まる。




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20081224





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