意外と華奢


「はぁ?余計なお世話だバカ」

そう言って繰り出した力の出ないパンチの衝撃は厚い胸板に吸収された。
そんなに肉がついているように見えたのかというつもりもない。
だが、かといって折れそうなんて言われるのは心外だ。
ちゃんと飯は食わせてもらってる。

「だってお前の年頃って、なんか皆ぷにぷにしてるし」

言われたのは確か初めて交わった日の事後、風呂場で。
ぷにぷにかどうかは置いておく。
だがその時はまだ12歳で。
年齢なんて倍以上あったし、身長も一回り二回りの問題じゃない。
ずっと顔を上げて話すもんだからどんなに首が痛かったことか。
まぁそれが苦痛じゃなかったのも事実だが。
というか、その年頃の子どもに手を出す大人がどうかしてるんだ。
そうだ、悪いのはオレじゃない。

三年経った今じゃ年齢はようやっと半分になり、あとはその差を埋めるのみ。
とは言っても実際縮まるのは年齢ではなく倍率なんですが。
身長だってキスするのにこちらは背伸び、あちらはできる限り屈んでいたのに今はそんな苦労もなく。
未だに下りてくる影に妙な被虐心を抱くのは内緒だ。
今後も言うつもりもない。

そんな今宵。

「はぁ?余計なお世話だバカ」

同じ言葉を繰り返す。
学習能力がないのはお互い様だ。

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ラブコール


『お前どうして出なかった』

普段は温厚…という訳でも無いが、別段怒った所をみないで今まで過ごしていた。
だから今日みたいな明らかに不機嫌ですと言わんばかりの声色に少しだけビビったのは事実だ。

どうして、と言われても理由がありすぎて困る。
第一、携帯電話が携帯もしくはケータイと略されている事に問題があるのだ。
そんな四六時中誰かに捕まってしまうものを所持していたら、自由なんてありゃしない。

『携帯をなんだと思ってやがる』
「現代人がせかせか生きる為に作った人間拘束用具の一つ」
『んなわけあるか』

じゃあ何なんだ。
少なくともオレは、嫌々持たされてから二週間は拘束された。
あらゆる友人、そしてアンタに。
自由な時間なんてありゃしねえ。
だからこそ面倒なアドレス変更だってしたし、それを教えなかった。
電話番号の変更は金がかかるからしなかったけど。
そうしたら貧乏学生の友人達からの学校以外での接触は減った。
すると案外静かなもので、もとより依存なんてなかった自分としては居場所を忘れる訳だ。
音が煩いからとマナーモードどころかサイレントモード。
お久しぶりですとひょっこり顔を出したのは一週間後。
使い込んでいないので殆ど無傷なボディは昨日買ったといってもバレないだろう。
すみません、明々後日で三ヶ月目突入です。

「じゃあ何の為にあんの」
『愛を紡ぐ為だよ』
「オェェ」

少しは恥じらってほしい。
思ってすぐ、190の巨体が恥じらう様を思い浮かべて激しい後悔の念に駆られた。

『まぁ半分冗談な。お前今暇?つーか暇だろ。オレん家来いよ』

半分本気ですかと聞きたい気持ちを押しとどめ、身勝手に今日の予定を作られるオレ。
選択権がないあたり泣けてくる。

「迎えにきてくれるんだったら」

こちらも半分冗談で返す。
するとコンコン、部屋のドアが鳴った。
親父かおふくろか。
すみませんが息子は只今取り込み中です。

「今電話中」

後にして、という気持ちを込めて携帯を放して短く答える。
するとどうだろう。

「『今迎えに行きます』」

ドアと携帯から重複した声が。
マジかよ。
開いたドアから髭面の巨体がこんにちは。

「さっ、行こうか」

電話の意味ねーし。

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お邪魔虫


ベストポジションだろうね。
ああ、そうだろうよ。

ひなたぼっこをしているシカマルの小脇にいるネコが憎たらしい。
図体のデカい自分ではまずありえないそのポジショニングにイライラが止まらない。
大人気ねぇなあだなんて笑われるのがオチだ。
それでも、そこを退いてもらえるのだったら喜んで笑われよう。

「おーしお前等の気持ちはよーくわかった」

自分もゴロリと寝転がって懐を空ける。
シカマルの状態を自分に、ネコの状態をシカマルにするわけだ。

「ヘイカモン」

ちょっとそれらしく言ってみたものの、微動だにされないので段々悲しくなってくる。
むしろ寂しい。
恨めしそうにジトっと見ていると、深い溜息を洩らされた。

「大人気ねぇなあ」

あ、やっぱり言われた。

「アンタがこっち来りゃいいだろが」

それは予想外!

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手取り足取り


「そして腰取り?」
「おっさん…」
「はは、冗談だよ」

嘘臭い。
笑顔が嘘臭い。

人生初のセックスが男相手だという時点で自分は終わっていると思う。
女が嫌いな訳じゃないが、女はどうもわからない。
だからだろう、こんな風に転んでしまったのは。
範囲外だったからこそ自分を曝け出す事ができた。
恰好付けなくてよかったし、気を使わなくてすんだ。
プライドも遠慮もなくてよかった。
ただ、ちょっと曝け出しすぎただけだ。

好奇心旺盛を装って聞いた事がある。

「アスマは最初誰とした?」

女みたいにぐちゃぐちゃ考えていた訳ではなかった。
ただ、アスマの最初も男だったら面白いなと思ってはいたが。

「聞きたい?」
「や、聞いてみただけだけど」
「言おうか?」
「言うんだったら焦らすな」
「お前はどうなんだ。聞きたいのか?聞きたく無いのか?」

どうしてそんなに真剣な面持ちになるかな。
こっちまで、苦しくなる。

「…聞きたい」

ふ、と苦笑か何だかわからないような顔をされて一言。

「泣くなよ?」

泣かねぇよ。
ただ、ぶん殴るだけだ。

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たしかなもの


高望みはしないし無茶だってしない。
そこまで手にしたいものがなかった。
今までは。

たかが三年といえばそれまでなのだ。
だが出会ってしまったのは事実であるし、それを今更無かったものとしようとも思わない。
けれども重かった。
この貧弱な身体ではとてもじゃないが支え切れないほど、それは。

握って掌の暖かさ。
恥ずかしがってろくに手を繋げなかった過去の自分を叱咤したい。
人気のない夜道でも断わりを入れていた自分は何だって言うんだ。

与えられた笑顔の優しさ。
貰ってばかりで何もしてやれなかったのではないかと何度も思う。
それなのに、どうしてあんなに嬉しそうな顔をしていたんだろう。

今は人生の中で二割を占めているこの三年間。
その割合は今後減っていく一方だ。
どうか消えないでほしい。
鮮明にとは言わないから消えないでほしい。
でも、美化はされないでほしい。

心の奥底の箱に大事にしまっておけたらどんなにいいだろう。
必要な時に取り出して、強くなれたらまた仕舞って。

いっそ夢だったらよかったとも思った。
だって雨でどんどん低下していく体温を見ていられなかった。
最期にキスすればよかった。
ホモだと笑われても、蔑まれても、幼馴染みに一線を引かれようとも。
貰ってばかりだったから。
せめて、冥土の土産にキスを。
そんなんで喜んでもらえるのだったらいくらでもくれてやるのに。
惜しまないのに。

存在しない未来などなくていい。
けれども自分が覚えている限り生き続けるから。
だから今日も生きていける。

気がする。

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06.11.23 ALL write
06.11.30 up

Thanks.
無差別アウトロー





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