91.デイ

いつもと変わらぬ朝を迎えた。

世界にとってはただの一日。
オレにとっては特別な、ただの一日。
こんな歳になると、特別に祝うとかしたりはしなくて。
変わらぬ日々を、少しの幸せをもって過ごすのだ。

「シカちゃん、誕生日おめでとーう!」

オレの日々をぶち壊すのはいつもオマエ。
コンビニで買ったとおぼしきケーキとシャンペンがビニル袋から覗く。
ニッコニコしちゃってさ。
当の本人よりも今日を楽しむオマエほど、物好きなやつなんていない。
そんな事を、思っていたのに。

バカな。
嬉しくて、しょうがない。

オレにとっては特別な、ただの一日。
オマエにとっても特別な、ただの一日。
そうだといいなと思ってしまったオレは。
今日のせいで浮かれているに違いない。

「サンキューな」

きっと。

−−−−−−−−−−

2005/09/22




ブラウザバックプリーズ。







































 


92.いつかどこかで

猫が死んだ。
いつも自宅の屋根の上でひなたぼっこをているオレによく懐いていた猫。
よく懐いている大きな犬もいたが、それはまぁ置いといて。
胡座をかいたその間にすっぽりと入るのを好んだ猫。
最初は人見知りをしていたその野良は、オレの害のなさにすぐに懐いてくれた。
ただ、大きな犬とは最後まで反りが合わなかった気がする。

猫は人気のないところでひっそりと死ぬらしい。
オレはその猫を、薄暗いじめっとした路地裏で見つけた。
普段はそんな所に目なんて行きっこないのに。
何故か今日だけは。
吸い込まれるように足を運び、愕然とした。
ぐったりと倒れる猫がいたのだ。
それも、あの。

オレは猫と喋る事なんて出来ない。
わかっているさ。

「今までありがとうな」

痛い程に。

「あっちでも、元気で暮らせよ」

手を合わせ、そっと抱きあげた。
暖かさなどない。
一番近くの森へ持っていこうと歩いた。
偶然キバが通りかかり、察したのか、黙って着いて来てくれた。
穴を掘るのを手伝ってくれた。
土もかけてくれた。
正面から抱き締められた。

「なぁ、輪廻って信じるか?」

耳元に声が響く。
やっと口を開いたキバは、真剣な面持ちで聞いた。
輪廻なんて、面倒臭いだけだ。
人生は、一度きりでいい。
首を降ると、キバは苦笑した。

「オレは、信じたい。こいつとまた、いつかどこかで会いたいんだ」

切れた。
何かが。
鼻がカァッと熱くなり、頬を、唇を、顎を、喉を、涙が伝った。
塩辛い。

キバの顔は見えなかった。

−−−−−−−−−−

2005/09/20




ブラウザバックプリーズ。







































 


94.限りある

命には限りがある。
短く儚い命を大切に生きるのが私達生物の使命。
むやみに命を伸ばそうとすると、他にしわ寄せが行く。

今日もどこかで誰かが死んだ。
今日もどこかで誰かが生まれた。
それは毎日飽く事もなく繰り返され。

裕福な家庭が幸せな90年を送る。
貧しい子供は5年生きられない。

今日もどこかで誰かが死んだ。
今日もどこかで誰かが生まれた。
それは毎日飽く事もなく繰り返され。

地球に人が溢れ過ぎた。
他の生物は絶滅しかけている物も少なくない。
だからだろうか?
テロや戦争でどんどん人が死んでいくのは。
人を減らす事で均衡を保とうとしているのだろうか?

今日、あのこが死んだ。
きっと今日、知らない誰かになってどこかで生を受けたに違いない。
あなたに会いに行く為に。

だから流すといい。
悲しい涙ではなく、嬉しい涙を。

生きながら待てばいい。
さっき擦れ違ったのがあのこかもしれないから。

心に刻めばいい。
あのこと過ごした時間は、本物だから。

時々思い出せばいい。
あなたが覚えているのなら、あのこは生き続けるから。

そしてあなたが笑えばいい。
きっとあのこはそれを一番望んでいるから。

−−−−−−−−−−

2005/10/31




ブラウザバックプリーズ。







































 


95.苦笑

自分で言うのもなんだけど、あたしは時々すごく身勝手。
幼馴染みという立場を使って精一杯のワガママ。
ぶつくさ言うシカマルは、それでもきちんと話を聞いてくれる。

ねぇ、アンタっていつもそうなの?
誰にでもそうなの?
恥ずかしいくらいの独占欲がお腹の中で渦巻いてる。
そんな時、胸がグッと苦しくなったりする。

バカだなぁ。

ふ、と自虐的に苦笑した。
この時のあたしはホントかわいくない顔してんだろーなぁなんて思う。
見せたくない。そんな顔は。
少なくとも、シカマルの前では。

両手を合わせて斜め下から首をちょこっと捻って。

「ね!おねがーい!」

くらえ!いのちゃんのお願いポーズ!

「めんどくせーなぁ…」

あたしはそう言うシカマルのこの顔が。

「やーん!シカマルだいすきー!」

すごく、すき。

−−−−−−−−−−

2006/05/01




ブラウザバックプリーズ。







































 


96.クローバー

どこでも寝る。
どこでも眠れる。
そんな君が今日選んだのは、緑が広がる川辺の坂。
白詰草が散らばるように咲いている景色も風通しも程よいそこ。
人通りがまばらなのも手伝って、彼のお気に入りの一つとなった。

そっと隣に座っても気付かないコイツは忍者失格だと思う。
両腕を頭の後ろで組んで、足も組んで、なんて無防備。
眉間の皺も今はなくて、それなりに整った眉がキレイだと感じた。

どうして一人でこんなところにいるの?

そんな疑問を投げかけたのは、まだ知り合って間もない頃。
当たり前のように友達と遊んでいた自分にとっては正に疑問そのものだったろう。
1人の時間を楽しむ方法なんて知らなかった。
君に、会うまでは。
出会ってから、本能のままに生きていた自分の見解が幾分広がった。
間違いなくそれは彼の影響で。
変わっていく自分は不思議でもあったし、新たなる発見で嬉しくもあった。

白詰草の丸っこい葉っぱが頬を撫でる。
それにピクリと反応し、みるみる眉間の皺が復活した。
覚醒したばかりの顔は緩んでいて、思わず吹き出してしまった。

「いたのかよ…」

欠伸をしながら伸びをしたり首を回したり、実にマイペースな動きを見せる。
それでも幸せそうに空を見るもんだから、嬉しくなってしまうではないか。

「なぁに笑ってンだよ」
「や、幸せそうだなぁーと」

見上げた空は、限り無い青。
そして浮かぶ雲。

「幸せといえば」

切り出した声が思った以上に優しくて。
白詰草を弄る手を、ずっと眺めていたかった。

「これの別名はクローバーなんだぜ。四葉、探してみたら?」

こういうの探したりすんの好きだろ?と付け加えてまた視線を空に戻した。
確かに結構好きではある。
よくわかってるな、とまた少し嬉しくなってしまった。
キモチは大変ありがたい。
だけど。

四葉なんていらないよ。
欲しいのは、君がいるという確かな事実。

−−−−−−−−−−

2005/09/24




ブラウザバックプリーズ。







































 


98.無駄な夢

オレ前に言ったよね?
アレ、結構本気。

別に任務明けでも人を殺したでもないけれど、ヤケに気がたっている。
不意にお前がのうのうと空気を吸っていることがイヤになってしまったのはきっとただの嫉妬だ。
頭をわしりと掴んで唇を押し当てると歯が当たるか当たらないかのところで髪の毛を引っ張られた。
ナイスタイミングとしか言えない。
いきなり何すんだと目が訴えているけれど、それをわかった上で知らんぷりをしてみせる。
だって気持ちなんて曖昧なもので、自分が知らないと思えば知らないことにできるから。
唇を奪うのがごくごく当たり前のようにもう一度トライしてみる。
諦めたのか、今度は何も訴えられずにオレの赤いであろう舌をただ受け入れてくれた。

発情期なんだよ、オレは。
お前を誰かに曝してしまっている現状がイヤだし、それを阻止できない自分もイヤになる。
息吸うよりオレの唇を奪ってほしいしメシ食うよりオレと一緒にいるのを選んでほしい。
お前がだいすきな寝ることよりもオレとセックスすんのを望んでほしい。

お前の三大欲求の全てをオレに向けてくれればいいのにね。
なーんて。

−−−−−−−−−−

2006/08/21




ブラウザバックプリーズ。




fcさんありがとう。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送