71.積み上げる

西洋札、その名をトランプ。
それでかれこれ十数回はババ抜きをしている。
そしてその全てがオレの惨敗。
なんで。
どうして。
頭をグシャグシャと掻きむしりながら考えど、答えなど出るはずもなく。
腹が立つのでオレが勝つまで付き合わせる事にした。

「…オッマエ、よく飽きねーのな」

17回目の惨敗を喫したオレにそんな言葉を浴びせるなんて。
項垂れているオレを他所にトランプを書き集める姿すら、ムカツク。
シカマルは集めたトランプを2枚取って、斜めに立て始めた。
何をするんだろうと覗き見る。
器用に次々一列、その上にまた一列…と並べられていく。
ピラミッド。
ああ、身勝手な怒りに便乗してぶっ壊してやりたい。
残り2列のところでシカマルはゆっくりと首だけ振り向いた。

「動くなよ?」

片眉と口の端を上げて笑う。
ぶっ壊してやりたい。
ついさっきまで、そう思っていたのに。
怒りや呆れの顔を見るよりは、喜びの顔を見たかった。

「了解」

息で倒れないよう小さな声で返すと、シカマルは頷いて視線を戻した。
器用だなぁと思いながらジョーカーと4の組み合わせが立つのを見る。
あと一列。
部屋の空気もピリピリしてきた。

「へぇ…っくし!」

あ。
バラバラと無惨に崩れ去るピラミッド。
やっちまったと振り向くシカマル。
オレ、何て言えばいいの。

「あー…マジ最悪」
「…あとちょっとだったのによぉ」
「なー。…気分転換も済んだ事だし、またオマエの相手でもしてやっか」
「ワォ!シカちゃんやっさしーい!」

…ってオレが喜んでどうすんの。
オレが見たいのはオマエの笑った顔なのに。

「オマエにだけなー」

時々普通に喋るようにしてすごいことをサラッと言い放つから、なかなか気付けない。
バラバラになったトランプを今一度かき集めてオレを見る。

「またババ抜きでもいいぜ?」

シカマルのそーいうトコ、ホンットすき。

−−−−−−−−−−

2005/09/25




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72.崩壊

結局は、恐かっただけなんだ。
年頃になれば、互いのポジションも分かってくるもので。
歳を重ねる毎に、知らず知らずの内に少しずつ距離が開いていった。
それでも尚、オレらは微妙なバランスで『幼馴染み』という体裁を保っている。

誰が『すき』なんて難しい言葉を考えたんだ。
心がひかれること?
気に入ること?
片寄ってそのことを好むさま?
じゃぁ、オレのこの気持ちはなんて呼べばいい。
どうしようもなく大切にしたくて。
笑って欲しくて。
オレの事を見ていて欲しくて。
ただ一緒に居たくて。
触れたくて。
触れて欲しくて。
こんな気持ち、『すき』なんて言葉じゃ全然足りない。

『幼馴染み』という枠組みの中でハッキリと自覚出来ただけでもマシなのだろうか。
今更何て言えばいいのだろう。
打ち明ける気など更々ないのだけれど。

甘んじているのだと思う。
『幼馴染み』は無条件で傍にいられる理由だから。
肩書きを賭けてまで、ギャンブルをするつもりはない。

結局は、恐かっただけなんだ。
幼馴染み以上に見られていなかった、と。
わかってしまう、その時を迎えるのが。

−−−−−−−−−−

2005/12/04




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73.最後

餓死で死ぬくらいならじじいになってから餅を喉に詰まらせて死にたい。
だらだらと勿体無い時間を過ごして楽しんだと満足して死にたい。
それが叶うなら、別に華やかな人生じゃなくったっていいんだ。

大人になったらそこそこの嫁さんもらってさ。
暖かいベッドから起きて焚きたての白米と味噌汁を食ってさ。
毎日頑張り過ぎない程度のやりがいのある仕事をしてさ。
気のおける仲間や上司と過ごしてさ。
適度な収入で時々うまいもんでも食ってさ。
休みの日は自分の好きな事して過ごす。
そういう、ありふれたもんでいいんだ。
どこにでもあるようなのでいいんだ。

「でもそれが結構難しくって」

普通っていうのは何を指すんだろうと最近思う。
幼い頃から普通でいいと言っていた。
その普通が今はわからない。
わからない、というよりあやふやになって来ている。
普通でいたいのに。

「お前は無理して変わることねーよ」
「ああ、ホントはそうしたいトコなんだけど」

無理だ。
だって完璧だった筈の人生設計が今現在で崩れかかっている。

「お前のせいだ」
「はぁ?何が」
「全部だよ、全部」
「だから何がだよ」

無理はしてないのに、変わるつもりはないのに。
変わってしまう。

「お前の存在がオレの人生設計に大きな支障をきたすんだよ、馬鹿」
「だいじょぶだいじょぶ、なんとかなるって」

卑怯だ。
何もしてないのに、こんなにも影響を受けかねないなんて。
卑怯だ。
諸悪の根源のくせに、根拠の無い「大丈夫」を言うなんて。
笑ってしまうではないか。考えるだけ無駄なのだから。
安心してしまうではないか。信頼しきっているのだから。

「人生はマニュアル通りにゃいかんのだよ、シカマルくん」

でもオレの最後くらい、お前の側にいさせてよ。

−−−−−−−−−−

2008/03/22




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74.雨は降っているか?

いっその事、この得体の知れない思いごと洗い流してくれたらいいのに。


雨が降るのだろうか。
天気予報を見ないで外に出てしまった。
雲の動きからは微妙な天気しか読み取れない。
チ、と短く舌打ちをする。
アスマの家からまだ少ししか歩いていない。
引き返して傘を借りるのも考えたが、返しに行く理由が出来てしまう。
そんな策など一切頭に無かったが、一度考えてしまうともう駄目だ。
下心というには盛大なるズレがあるが、こう、なんと言うか。

「別に、理由を考えてまで行くような場所じゃねーし」

独り言が路地から浮き、湿った空気と混ざり合う。
雨は降りそうだろうか。
空は色々と混ぜ込んでしまったような色をしていて、お世辞にも綺麗とは言い難い。
帰るなら今の内だ。
それなのに足がどちらを向いているのか。
既にもう、わからない。

「おい」

声をかけられ初めて気付く存在。
気配を断っていたいたのではなさそうだった。
自分が無心なだけだったのだろう。
情けのない事だが。

「…何」
「なに、じゃねぇよ。傘くらい持ってけ」

差し出されたのは大きいサイズの傘。
自分が持つとバランスの悪さに笑ってしまいそうだ。

「…いらね」
「あぁ?」
「いらねって」

頑に拒否するなんて、きっと馬鹿らしいだろう。
だって今にも降り出しそうなのだ。
いらない筈ないだろうと少し強引に傘を押し付けられる。
それを地面に叩き付ける。
馬鹿だ。

「馬鹿かお前」

馬鹿はお前だ。
優しさの押し付けにしか見えない。
そんなもの一切望んじゃいないから。
何事も無かった日々を返してほしい。

「ああ、馬鹿だよ。だからいらねって。早く帰れよ」

腹の奥がヅクヅクして気持ち悪くて今にも吐きそうだ。
何に対してイライラしているか分からない。
分からないのに、ヅクヅクの先に何か答えが見えそうで、暴けそうで。
それが、怖い。

「お前いつもそんなんじゃねぇだろ。…どうした?」

雨はいつ降り始めたのだろうか。
差し出された傘が二人を覆う。
なんて事ないみたいな顔をして、いとも簡単に。
遮断された雨はバダバダと音を立てるから少し耳障りだ。
それなのに、何なのだろう、この気持ちは。

「いくら男でもなぁ、こんな雨の中で濡れながら帰るってのはアホみたいだろうが」

ぶちぶち楽しそうに言いながらアスマは一人で勝手に喋る。
男二人で一つの傘の方がよっぽどアホみたいなのに、それに気付いていないのだろうか。

雨脚が幾ばくか弱まって、バタバタが耳に付かなくなってきた。
それでも景色はまだ薄暗い。
いつになったら止むのだろうか。
それまでに何か変わっていて欲しい。
せめて腹の奥のヅクヅクさえ無くなれば。

サァサァ。
細くなった雨が道筋をゆるゆると流れる。
いっその事、この得体の知れない思いごと洗い流してくれたらいいのに。
そうすればもっと楽になれる筈なのに。

「帰ったらちゃんとシャワー浴びろよ」

礼の一つも言えないまま、隣を見る事も出来ないまま。

「…ん」

雨に溶けて無くなれと、ただ切に願っている。

−−−−−−−−−−

2009/01/30




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75.迷い

どうしようもなく不安な時は触って確かめたい。
一緒にいるのにまるで儚い存在になるのでどうしようもない。
ただ、消えないでくれという願いがもしも叶うなら。
オレは恥も苦行も厭わない。

目尻に髪の毛がはりつく。
いつもだったら重力に逆らったそれは、雨だからこそなすがまま。
消えた煙草の火を構わず、捨てようともしないので湿る。
腕を回すというには足りないその手が、服の皺で必死さを物語っている。

まだ、足りないのだろうか。
自分で言うのもまるで可笑しな話だが、これでも精一杯やっているつもりだ。
正面さえ向いていないのに顔が上げられない。
手だって震えてきたし、雨だって冷たいし、 胸のあたりなんて痛い。
せめて顔くらい上げようか。

答えてやりたい、とは思う。
雨の中の息遣いも、腕の下で震える手も、愛おしいのに。
笑って杞憂を晴らしてやることすら出来ない。
サアサアと軽い音を立てているのに背景音楽が場を盛り上げることなどない。
振り向き抱きしめるべきか。

((即決出来ないオレは、いつだって敗者だ。))

−−−−−−−−−−

2006/09/04

イメージしていた絵を二年越しで頂戴することが叶いました。
カズさんの寛大なるお心遣いに感謝致します。

2008/10/31 追記




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77.ストレス

目に見える程に増えている。
いつもと違うこともわかる。
けれども風向きだけは考慮して、いつもオレの風下にくるように移動してる。
紳士なんだかそうでないんだか。
明らかに山積みな灰皿を目の前に、オレはどうすりゃいいの。

「アスマ、そのへんで…」
「ああ。…まぁもちっとだけ」

今まさに二箱目の空箱がアスマの分厚い掌でぐしゃりと音を立てました。
ラッキーストライク。
今の箱を見たら全然ラッキーでもなさそうだけど。

「オレにも一本」
「お前はあと5年」
「ケチ」
「何とでも」

少し離れた位置に投げ捨てられた新聞紙を拾い上げる。
三面記事に目を通すと理由がなんとなくわかってしまった。
その気持ちもわからんでもないけど。

「アスマは金持ってんだからいいじゃねーか」
「気分的にイラッとくる」
「どういうトコに?」
「ちょこちょこ値上げするトコに」

まあ、非喫煙者のオレには関係ないけどさ。
アスマのこういう顔はあんますきじゃないから見たくないんだけど。

「これを機会に少しでも量を減らしてくんねーかなぁ?」
「何故」
「オレが長生きできるから」

知ってる?副流煙って言葉。

−−−−−−−−−−

2006/08/24




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80.雑草

ブチブチと千切られるように無惨な姿を見せるくらいなら、いっそ。


珍しく神妙な面持ちで呼び止められたから驚いた。
シカマル、と。
ヤツが確りと名前を呼ぶには一応の理由があって、それはいつも真剣な時だけで。
だからこそ何かしらの覚悟をもって臨まなければならなかった。
面倒くさいが、それを予感させてくれるその行為はありがたい事この上ない。
いきなり往来で刃物を突き付けられるより断然マシだ。

「なに」

なるべく平静を装って返す。
たかが名前を呼ばれたくらいで動揺する訳にはいかない。
息を吸って肺に入れて吐く。
当たり前の行為でも、意識してやると案外落ち着くものだ。

「お金、貸して」
「馬鹿!チョー馬鹿!!」
「えー!駄目!?」

無駄な決意を返せ!何度も叫んでその隅でホッとしている自分がいた。
いっそ壊れてしまうなら、どっち付かずで構わない。
生温いくらいが丁度いい。
だって嫌だろう、自分のダチだと思っていたヤツがまさか。
まさか。

本当は。
自分だってそうだと断言できないこの些細な気持ちの揺れを名前で呼んでいいのなら。
呼びたいさ、ああ呼びたいとも。
だけどちょっと頭を冷やして考えてみれば解る事だ。
そうする事にプラスの意味などない。
あるとすれば自分のもやがかった心の突っかかりが無くなるだけ。
決してもやが晴れるとイコールで繋がらないのだ。
だから。

「いくら?」
「!!シカ、ちゃんっ!!アーイラーブユゥゥゥ!!」
「はいはいミートゥーミートゥー」

いいよ、別にこのままで。
だってそんなに強くない。
踏まれたらもう、きっと立ち上がれない。
何事も無かった様な顔ができない。

「すぐ返せよ明日にでも返せよマジで」

落としたらすぐに割れてしまうとも知らずに、
鉢の中に大切に大切にしまっておいては、
無駄な気持ちが芽生えぬよう、
名前のない気持ちの揺れが起こる度、

「うんホントそういうんだからシカちゃんのことすき!」
「はいはい、オレは嫌いだよ」

丁寧に根っこから抜いていくのだ。

−−−−−−−−−−

2008/03/25




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