61.逃げ回る

すぐに捕まるなんてわかってる。
けれども、容易に捕まってしまえば調子に乗られる。
それだけはゴメンだ。

短い休憩時間に久しぶりに会ったと思えばコレだ。
人気のない部屋に半ば無理矢理連れていかれて唇を塞がれる。
求められているのはわかるしそれなりに嬉しいのだが。
何というか、もうちょっとシチュエーションってものがあるだろう?
女々しいと言われればそれまでだけど。

唇が重なり、歯をこじ開けるようにして舌が差し込まれる。
上壁をチロチロと弄られ背筋が震える。
捕まらないように引っ込めると、すぐにアスマの舌がオレを追い掛けた。
グッと深くに避難したってどうにもならない。
途切れ途切れの息継ぎしか出来なくて少々苦しい。
放せという意を込めて腕を掴むと事もあろうか間違った解釈をされ、服を捲り上げられる。

「ちょ、マジで…や、めっ…コノ!!」

ようやく離れた口からすかさず行為の中断を申し立てるが、腕の動きは止まるはずもなく。
冷たい手に触れられた体は否応が無しに反応してしまう。

「シてぇんだろ?」

それはこっちのセリフだ。
年中盛ってんじゃねーぞこの変態が!!
罵ってやりたいのにそれが出来ないのはきっと嫌いじゃないからで。

唾液でぬらつく唇を拭ってニヤリとする髭面。
器用なほど手先はよどみなく動いていて、そこかしこ弄くり回される。
無意識の内に眉間の皺を増やすと決まって耳朶を舐められる。
それがいつの間にやら首筋に降りてくる。
お決まりのパターン。

意識はまだハッキリしている。
本気で止めたいのなら、ここが抵抗できる最後。

「何日振りだっけか?」
「知るかよ…」

それをしなかったのは逃げ回るのに疲れたからだ。

「…どう足掻いても遅刻すんだけど」
「『アスマ上忍』のせいにでもしとけ」
「了ー解」

そういうことにしておいて。

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2005/11/17




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62.嘘

ギロリと睨むだけで、何も言わない。
妙に冷静な顔つき。
それが一番恐くていやだった。
憤慨して顔を赤くしたりもせず。
軽蔑の視線を向けるでもなく。

ごめん。
ごめん。
ホンットに、ごめん。

何度も謝れど、返事は貰えず。

一定の距離を保ったまま、歩く。
否。
一定の距離を保たなくては、オレなんか放っておかれそうで。
一定の距離を保たなくては、嫌われそうで。
離れて欲しくないけれど、近づく事も出来ず。

その後ろ姿は何も言わない。
オレはどうしたらいいのかわからない。
ひたすらに謝る事しか。

「なぁ」

馬鹿な事をした。

「怒ってる?」

怒っていないはずがないのに。

「嘘、ついてごめんね」

それでも、もう止まらない。

「悪気はなかったんだ」

涙が出て来そう。

「なぁ、シカマ」
「っせーよ」

やっと聞けた声。

それが例えどんな言葉であろうと。

「怒ってねェよ」

嬉しかった。

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2005/09/15




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63.No.1

お前には大事な仲間がいるって事くらい知ってるさ。
だけどさぁ、もちっとだけ。

「あー、そーいうの、マジウザイ」

眉間の皺が呆れただなんて言ってるように見えるのは多分オレの視力がいいから。
両目2.0ですから。ヒャッホゥ。
だけどそういう言い方はないんじゃないですか?
仮にも僕らは『おつき合い』というものをしていることですし。

「じゃ、別れる?シカちゃん」
「あー別に構わねーよ。バイバイキバ。なかなか楽しかったぜ」
「うっそ早いよね決断が嘘に決まってんじゃん嘘にっつかすみませんマジで」

デガワよりも早い土下座によりなんとかおつき合い続行ですよ。ハァ。
ああもう、オレの愛っていつも一方通行。

でもホントはオレのことそれなりにすきだって思っててくれてるのは知ってるよ。
知ってるからこそ、もっと知りたいしシカマルの中をオレでいっぱいにしてやりたいんじゃないですか。
これは偏った愛し方ですか?
これは間違った愛し方ですか?
オレの素直な気持ちは決して純粋ってワケじゃないのですよアンダースタン?

ナンバーワンよりオンリーワンとかそんなカッコつけなくたっていいよ。
オレはただ、君のナンバーワンになりたいだけなんです。

息吸うよりオレの唇を奪ってほしいしメシ食うよりオレと一緒にいるのを選んでほしい。

「病気デスネ」

あっ、今ちょっと引いたね。いやむしろ大分引いたね。
でもって、それでもそんなオレのことがすきなんだろ?

だからお前はオレん中の不動のナンバーワンなんだって、ば!

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2006/08/05




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65.ネオン

夜の繁華街を少し外れれば怪しげな色が眩しい通りに出る。
性欲を焚き付けるような紫や目を引く黄色、赤、青、ピンク。
こぞって競い合う看板を横目にするすると目的地に向かう。
こぢんまりとした入口は周りの看板がまるでそれを引き立てる為に存在するような下品なものに見える。
ドアを開けるとカララン、と古めかしい音がした。

「いらっしゃい」

あからさまに胡散臭い恰好をした知人が熱心に水晶を見つめながら声をかける。
初めて見るそれはおかしくってならない。

「占って欲しい事があるんですが」
「何でしょう?貴方の全てを占って差し上げます」

やっと突き止めたというのに逃げも隠れもせずに堂々と向かい合う。
もしかしたら今日ここに来るということを予測していたのだろうか、だなんて。
運命付けられていたんじゃ、だなんて。
思ってしまいそうに、なる。

「オレたちのこれからです」

カタカタカタカタ。
耳障りな音は今はない。

今はただ、ドク、ドク、ドク。
生きる為の、リズム。

チカ、チカチカ、チカ。
切れかかった、ネオン。

カチ、コチ、カチ。
年代物の、振り時計。

もしかしたら今日ここに来るということを予測していたのだろうか、だなんて。
運命付けられていたんじゃ、だなんて。
思ってしまいそうに。

「…『隣人を頼れ』、ですね」

なる。

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2007/06/21




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66.グラス

カラン、と涼しい音が鳴った。
氷が溶ける、あの。

カルピスの瓶を手に取り、眉間の皺は深く刻まれた。
キバが飲んでいるのはおそらくコレだろう。
水で割って、氷を入れると風呂上がりには最高だ。
御歳暮なんかにもよく使われるそれは正に今年のソレで。
箱を開けると、四本の瓶が水玉の紙に丁寧に包まれていた。

上半身から湯気をだし、肩にタオルを引っ掛けたキバはここの所毎日のように飲んでいる。
喉仏が上下したのが何となく目に付いた。
一見何の変哲もないこの光景。
しかし、不必要なはずのものがそこにはあった。

「キバ、牛乳出しっ放し」
「あっ、ごめーん」

何故、牛乳なんかが?
その謎は、冒頭の行為に繋がる。
茶色の瓶に貼られたラベルシール。
そこに刻まれた文字に、シカマルは目を疑った。

「キバ、それ何割り?」
「牛乳割り!」

やたらと白いその液体をかかげてニンマリとしたやつの味覚とカルピス製造元を疑った。
何度頭の中でシュミレーションしても、カルピス原液と牛乳の組合せなんて。
オレの常識を易々と超えてみせたその液体は正に未知の味。

「旨いよ、飲む?」

絡んだ視線にキバは小首を傾げてソレをこちらに向ける。
バカヤロウ。
そんな優しさ、いらないよ。

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2005/09/19




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67.扉

開けてはいけない。
そんな忠告なんて知ったことか。
人はね、駄目だと言われるとしたくなる生物なんです。

とんだ生物だ。人間なんて。
地球が生み出した気まぐれのくせに、こんなにはびこって、さ。
それなのにロマンだとか愛だとか名付けては恍惚に。
快楽だとか愛だとか名付けては心に忠実に。

開かれた扉は止め処なく溢れる感情。
押えきれないから閉じていたのに開いたのは誰かと問うたら自分しか残っていなかった。
そうか。
確かに開いた。心を。
そう言えば開いた。心を。
曝け出したかったのだ。全てを。
受け止めてくれるのではないかと期待したからだ。少しでも。

開けっ放しの扉。
お前を取り込んだ後、ぴしゃりと閉めよう。
誰も入ってくるな。

誰も。

「アスマ」

呼ぶ声にのみ反応し得る、この扉。

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2006/08/08




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69.幸せ

変わることより変わらないことの方を望む。
いのは毎日が目まぐるしく変わるのを望む。
どちらかと言えば和菓子の方が好きだ。
いのはプリンとかそういうのが好きだ。
オレは暗色系が好きだ。
いのは明色系が好きだ。

オレ等2人はまるで別物で、わざとそうしているんじゃないかと疑うくらい正反対の位置にいると思う。
けれども一緒にいるとすごく気持ちがいいし、何より安心する。
いるのが当たり前になっているのだ。

いつしかいのは『幸せ』って何、とオレに聞いた。
辞書でも引けととても言いたかったのだが、いのは言っても聞かないだろう。
オレは確かしょうもない事を言ったような気がする。

「その話、よく覚えてるわー」

ソファに腰掛けて爪を切っているオレの髪の毛をいじりながら、後ろでいのが言った。
やはり大したことを言っていないのだろう。
髪の毛を縛っていたものが取り去られたので、重力に反せず髪は肩へと落ちた。

「なんか、答えになってなかったのよ」

聞けば、昔のオレはどうかしていたらしい。
『幸せ』って言葉なんて無いほうがいい。だなんて。

「それで聞く気無くなったんだからー!」

そりゃぁスミマセンデシタ。
心で謝ったってしょうがないけれど。
いのの手が髪の毛に絡んで気持ちがいいから、まぁ、いいとする。

「なんて言ったか覚えてる?」
「あー…………忘れた」
「なによソレー!」

放っといても月日はめぐるしオレだって否応無しに変わる。
もう、昔の話は止めにしませんか。
ついでだから言うけど、オレの髪だってそんな女っぽくすんのも止めにしませんか。
過去の自分を否定する訳じゃないけれど、オレがちったー大人になったってことでここは一つ。

こういう大した事のないことを懐かしみながらいのと一緒にいるだけで十分。
そんなオレは、いのの幸せをひたすらに願うんだけど、ね。

−−−−−−−−−−

2006/08/03




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70.コーヒー

つくづく、アイツは変わってると思う。

キッチンからコポコポという音が聞こえる。
もうそろそろだ。
オレの予想通り、程なくして出来上がりを告げたコーヒーメーカー。
黒のボディが真新しい。
オマエがすきっていったからついついフンパツしちゃった。
これでまた、家に呼ぶ理由が一つ出来たワケだ。
オレにしては珍しく打算的。

さり気なく色違いのカップをそろえてみたりして、一人で盛り上がるオレ。
アイツは緑でオレが赤。
クリスマスカラーですか。
突っ込まれたが、気になどしない。

ハッキリ言って、コーヒーの旨さなどよくわからない。
何度飲んでもわからない。
だけど、やっぱりこう、同じモノを飲みたいじゃないですか。
心理です、心理。

ミルクとシロップを持ってテーブルまで持っていくと、アイツは何も入れずに飲みやがった。
何だそれ。
今まで気にしてなかったけどちゃんと見るとなるほど、水面はまっくろのままだ。
いわゆる、ブラックコーヒーとかいうやつですか。
大人の飲み物を飲んじゃうワケですか。
オレなんて、最近やっとカフェオレから卒業したってのに。

既にチョコレートを溶かしたような色になったオレのコーヒー。
実は、シロップも入っている。
スプーンで少しだけ混ぜるとマーブルになるあの瞬間が楽しい。
そんな楽しみ方、オマエは知らないだろ?

「なぁ」
「何」
「今度、シカマルがコーヒー入れてよ」

オマエがつくったのならさ。
ブラックでも何でも飲めそうな気がするよ。

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2005/09/09




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