52.さざなみ

さり気ない一言に心を惑わす。
大したことなんかじゃない。
それは本当にさり気ない、些細なことで。
その度に思う。
自分はこんなに女々しかったのか、と。

「シカマル今日の打ち上げ来なかったじゃなーい?」

ひとつずつ、ひとつずつ。

「その時サクラがさぁ」

それは着実に。

「すっごく楽しかったんだからー!」

ちくりと。

「シカマルもそう思うでしょ?」

棘みたいなものが。

「そう言えばサイくんってね」

胸に、刺さる。

「シカマルも来ればよかったのに」
「…ああ、悪い」

少しの沈黙も恐くて、それなのに言葉が続かない。
いのは気付いているのか否か。
顔を見ればわかるのに、視線を逸らしてしまう。
ああ、女々しい。

「もう、妬かないのー」

柔らかい声が降ってくる。
ヤラレタ。
途端に恥ずかしくなってくる。
女々しいったらない。
やはり顔は上げられない。

「別に、妬いてなんか」
「シカマルったらかわいいんだからー。もう!」

男がかわいいと言われて喜ぶだろうか?
ぎゅ、とされつつ疑問に思う。
しかしその疑問はすぐに消えた。
もういいや。
このいのの暖かさが答えだ。

こんな小さなことを気にするくらい。
些細なことで動揺するくらい。
いののことが。

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2006/08/24




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53.ポケット

少し骨っぽい、シカマルの手がすきだった。
忍の割に傷は殆どなくって、なんだか悔しい程キレイ。
そんな彼の手はズボンのポケットに手を突っ込んでいるので普段は中々お目にかかれない。
丁寧に切ってある爪も、しっとりしている指の腹も、勿論その中。
これじゃぁ手すら繋げやしない。
めんどくさいスタイルをキープするには、その姿が一番しっくりくるのはわかるけど。
並んで歩く時も勿論そうだから、何だかオレの手が寂しそう。

「…何してんの」

言われて気が付いた。
シカマルの手を掴んで、指を絡めたりしちゃって。
オレのポケットに己の手ごと突っ込んでいたのだ。

「どうせポケットに入れんなら、こっちのがいい」

オレのポケットの中が、ピクリと動いたのがわかった。
よし、今度からこの手でいこう。
握った手をきゅっと握り直すと、笑みがこぼれてしまった。
ほんのり赤くなった耳が、ピアスの銀を目立たせた。

悪態を吐かれたが構うもんか。
これでもう、オレの手は寂しくない。

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2005/09/18




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54.堤防

気持ちなんて曖昧なもので、誰かがコレといって決められるようなものじゃない。
かといって、移り変わるこの気持ちに名前を付けなければ今の気持ちがきっとどれだか迷ってしまう。
だからこそ、人は気持ちのひとつひとつに名前をつけてやったし、それに近い気持ちになった時に名前を代用した。
そう、それはあくまで代用品なわけで、それそのものではないのだ。

ゆるゆると流れる川はあくまで自分の気持ちのリズムだとして、それを留める物は理性という名の堤防だと仮定して。

溢れてしまわないように、これ以上の侵入を許さぬように。
理性という名の堤防は、自分にとっての最期の砦と言えよう。

「アスマ、」

一呼吸置く。
平凡から逸したことが何より嫌いで少ない労力でいかに人生を快適に過ごすかを模索している自分の脳を撫でた。
確かに堅固につくられた自分のそれは、3年間揺るぎない強さを持ってあらゆる物から守ってくれた。

「セックスしよう」

たった今、崩れ去ってしまったけれど。

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2007/02/26




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55.自転車

「やっぱ醍醐味だと思うワケよ」

いつもの事だ。
キバがいきなりワケのわからない事をいうのは。
夕焼けが広がる帰り道。
ガタガタと少々不安定に揺れる自転車の前方から聞こえたそれ。
サドルを掴み直してバランスを保ちながら、背中を小突いて先を促した。

「や、2人乗りっていいなーって話なんだけどね?」

チラリとこちらを見たので前方不注意でグラリと揺れた。
事故ったらどうしてくれる。
薄っぺらい鞄を荷台と己の間に挟んであるのでお尻はあまり痛くないが、これでは心臓が持たない。
あっぶね、と洩らしたキバにガンを飛ばすと大人しく前を向いた。

「こう、前でこいでるキバくんイコールかっこいい!みたいな」
「…で?」
「後ろに乗ってるシカちゃんイコールおひめさ」「死ね」

はぁ〜っと思いきり溜息をつくと、白い息が空を舞った。
もう11月も半ば、当たり前の景色だ。
かじかむ手に息を吹き掛けると同時に急ブレーキがかかって前につんのめってしまった。
キバの背中に思い切り前面、特に顔面をぶつけてしまったので鼻が痛い。

「…なしたよ?」

肩ごしに状況を問うと、キバはまともに振り向きもしないまま言った。
茶色のねこっ毛があたり、頬がくすぐったい。

「赤信号デース」
「だったらもっと前からスピード落としとけっつの」
「や、醍醐味だからいいの」
「はぁ?」

やっぱりワケがわからない事をいう。
何故赤信号で急ブレーキが自転車の醍醐味なのか。
首を捻るがキバの複雑な思考回路に及ぶはずもない。

青信号になった。
初めの頃は助走がかなりふらついていたのに、今は全くと言っていいほどスムーズに進む。
段差もあまりない所を選んで通れるようになったらしく、振動は殆ど無い。
もう2人乗りをして半年以上が経つ。
冬は確かに近づいていて、吹く風もわりと乾燥していて。
寒さで手がかじかむ事なんてしょっちゅうで、耳が赤くなるのだって当たり前で。
だから赤かったのが信号だけではない事に、この時はまだ気付かなかった。
背中が思ったより暖かかったことくらいしか。

「シカちゃん、コンビニ寄らね?寒くて死にそう」
「オッケ。あっちのサンクスは?」
「うっしゃ、キバくんいっきまぁす!」

スピードを上げたから風を切り、尚寒いはずなのに。
キバの肩を掴んだ手がなんだか暖かくってならなかった。

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2005/11/18




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56.待ち伏せ

寒い。
手がガチガチに冷えているのがわかる。
いや、冷えているを通り越して、痛い。

この道を通るかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて、ベンチに座った。
乾燥した空気が喉を乾かせる。
はり付いた喉を少しでも潤そうと、唾を呑み込んだ。
喉がゴクリと鳴った。
大して潤わなかった。

自分が中忍試験の担当になってから、十班としての任務が減った。
自分を除いたスリーマンセルで任務をこなす事が多くなったのだ。
それは仕方がないのかもしれない。
だが、なんだか腑に落ちなかった。

今日もまた、早朝から任務があると聞いた。
山林で一週間程里を出るらしい。
規則の為任務内容は明かされなかったが、動物の捕獲作業及び植物保護といった所だろう。
まさに十班打ってつけの任務というワケだ。
大して危険な任務ではないのだが、只でさえ会う機会が減っているというのに、一週間も。
軽く目眩がした。

せめて一目でも。
そして見送ってやりたい。
想いは届いて、こちらに向かってくる影を捕らえた。
重い荷物を背負ってなるべく軽装備の三人。
立ち上がろうとした。
足が上手く動かなかった。

「……………よぉ」

なんとか堪えながら、それだけ吐き出した。
あと、大量の白い息も。
フワフワと空に浮かびすぐに消えるソレを追って、いのは口を開く。

「…あたしたちを見送りに来てくれたの?」

頷くと、何だかとても恥ずかしい事をしているように思えて体がカーッと熱くなった。
その熱が移ったのだろうか。
いのの顔も赤い。
鼻先はもっと。
ほっぺたは、それよりもっと。

男同士にしかわからないアレがナニしたのだろう。
アスマとチョージが気をきかせたのか、数歩下がった所にいる。
苦笑して、いのを近くに寄らせる。

「気ィつけて、な」
「ありがとー」

やはり白い息は空を舞い、フワフワと彷徨い、消える。
何か他に言いたい事があったはずなのに、言葉が続かない。
意味深にいのを見つめてしまう結果となる。

「なぁに、寂しいの?」

クスクス笑いながらいわれる。
図星、なのだろうか。
一瞬胸がグッと締め付けられた。
同時にいのを抱き寄せていた。
あたたかい。
とても。

「…行ってきます」
「早く戻って来いよ」

体温を惜しみつつもこの身体から放す。
自分から抱き寄せておいていうのもなんだが、心臓がうるさくってかなわない。

離れていく三人の後ろ姿を見た。
門はあとどのくらいの距離だったか、とか。
自分の集合時間まであと3時間もあるから寝直そう、とか。
足の感覚ねぇなぁ、とか。
半ばどうでもいいことを思いながら。

姿が消えた後、緊張が溶けたのか、ベンチにへたり込んでいた。
このまま寝てしまってはいけない。
絶対にいけない。
折角一週間分の補給をしたというのに。

何とか足を解し、フラフラしながらも立つ。
顔が緩んでいるのは寒さのせいにでもしとけ。
ゆっくりと家に向かった。

喉が乾いたって構わない。
足の感覚がわからなくなったって厭わない。
こんなにも陶酔するのはオマエだけ。

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2005/12/07




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58.散歩

ずっと前から知っていた。
今でこそ隣にいるこの存在を。

子どもの頃、だなんて言うと今も十分子どもな気がしないでもないが、それでも子どもの頃。
朝早くから赤丸と散歩に出かけ、次いで森へ新鮮な空気を吸いに行く。
鳥が鳴き始める程の早朝の森は雰囲気が違う。
新しい空気が生まれる様な、息吹に触れるのだ。
身体を目一杯使い、木々を掻き分けるのは最高に気持ちがいい。
思う存分遊んだ後、開けた場所で休憩を取る事にした。
が、そこには既に先客がいた。

英雄の名が刻まれた墓標。
幾つも並ぶそこだけがずしりと重たく感じる。
そんな中に1人ぽつりと佇む男はずっと下を向いているので表情が読めない。
あんな所で何をしているんだろう。
一瞬そう思ったが、特に興味も湧かなかったので休憩所を変更した。
変なやつ。それだけだった。

だってまさかそれが三年も続くなんて。

散歩の折、気まぐれにそこに行くと必ずいるのだ。
しかもただずっと下を向いているだけ。
晴の日も。
雨の日も。
風の日も。
雪の日も。
まさかいるわけないよなと半信半疑で行くと、台風の日でさえも彼はそこにいた。

何なんだ。
何なんだ、一体。

『変なやつ』所の話ではない。
異常だ。
気にならない方がおかしい。
同じ姿で毎日のようにそこにいるので幽霊の類かと思う。
木ノ葉の忍の姿をした、不思議な。

そうこうしている内に、いよいよ幽霊の正体が知りたくなってしまった。
長らく押さえ込んだ好奇心は、一日中張り込むという実に面倒くさいことすら実行でき得る力があった。
決行は曇りの日にしよう。

食料、よーし。
望遠鏡、よーし。
武具一式、よーし。
クナイの使い方は授業で習っている。
手裏剣の命中率もほぼ100%になってきている。
いざという時の為に、小枝で作った十字架と塩とニンニクを準備してみた。
方向性がちょっと違っているかもしれないが気にしない。

準備万端でいつものようにそこへ行くと、やはりいた。
期待を裏切らない。
本当に方向性が違ってきているかもしれない。

「キミさ、毎日来るのはいいけどちょっとは気配消しなさいよね」

いきなり真後ろから声をかけられて仰天した。
そのついでに情けない雄叫びまで上げてしまった。
悔しい事この上ない。
ついでに。

「わ…!あっ……あ……」
「ビビリすぎ」

暫く上手く喋る事すらできなかった。
確かに先程までそこにいたのだ。
いつものように、いつもの墓前の前に。
というか、今もいる。

「第一さ、今日の恰好って何?仮装?色んな意味でおもしろいよキミ」

墓前の方が煙を出して消えた。
分身の術かよと舌打ちをする。
まあ、本当は影分身だったんだけれどもこの時は知るはずない。

「アンタさ、忍者だよな?」
「そうだよ」
「じゃあ幽霊?」
「ぶはっ!」
「笑うなよ!」

こっちは真剣に聞いているというのになんていう男だろう!
しかもいつの間にやら赤丸を手懐けて、優しく頭を撫でてやっている。

「違うよ、違う」

ようやく顔をしっかりと見ると、顔の大半を覆い隠した、

「ただの忍者だよ」

ニコ、と笑った片目になんだか安堵してしまった。

ただの忍者は毎日懺悔をするように墓前に立っていた。
聞いたのはずっと後のことだが、何となくその気持ちがわかった。
自分が見ていた事は知っていたらしいが、放置していたらしい。
奇妙だなぁ言うと、また優しく笑った。


「カカッせーんせ」
「お、どーしたの?今日は機嫌いいね」

ニシシと笑い、銀をぐしゃぐしゃとかき混ぜてやった。

「急になんて事するのこの子は…!」

あれから色々喋る機会があったりなかったりしていつの間にか自分は忍者の端くれになった。
そうすると自然と会う機会も減るわけで、何だかとても。

「寂しい、と思うのとはちょっと違うけど。でも朝以外でも会えたら嬉しいよね」

この大人を、もっと知りたいと思ってしまった。
ずっと前から知っていた、隣にいるこの存在を。

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2007/06/03




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60.アスファルト

「花ってね、繊細なのよ」

いつもと同じ帰り道。
鞄をプラプラさせながらいのがそう言った。
花屋の娘からしてみれば今更みたいな言葉にオレはふうんとだけ答えた。

「そして強いの」

いのの白くて細い指が指しているのはアスファルト。
歩道と道路の間の小さな段差に小さな花が咲いていた。
アスファルトを突き破ってきたその花は、小さな身体に似合わずとてもとても強い。
普通の花屋に売られているそれより、名前も知らぬその花がヤケに印象深くて。
それはまるで。

「水も定期的にやるわけじゃないし、誰かに踏まれることだってあるわけだし」

いのみたいだ。
強くて、そして思った以上に繊細で。
それなのに弱さを見せようとしなくて。
それなのに女として生きている。

お前がその花みてぇ。

アスファルトみたいな壁をぶっ壊して、いつも突飛なことをしでかすその姿はやっぱり。
口に出すと何処のキザ男だと笑われるだろう言葉を、ごくりと飲み込んだ。
花屋で小奇麗に飾られてんのはお前には似合わねーよ。
そんなお高く止まったって、お前のイイトコ全然見えねーもん。
オレは知ってる。
いのがめちゃくちゃ努力家だってこと。
意地があること。
それを決して他人に見せない所。

アスファルトで頑張ってるトコ全部隠して、突き破って奇麗な色を見せる。
いのの頑張ってるトコなんて、オレだけが知ってればいいんだ。
ということはオレがアスファルトでいい訳だ。
…ってオレってどんだけキザなんだ。
むしろファンシーか。
ドリーマーか。
妄想癖か。
恥ずかしいったらありゃしねー。

「今日はいの店番?」
「そう」
「道理でこんな話、ね…」

オレ以外の誰にも気付かれずに。

「お手伝いしに来ませんか?シカマルくん」
「暇つぶしの相手ならしてやりましょうか?いのさん」

咲け、オレの花。

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2006/08/24




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