41.メロディー

店番も終わってなんとなくシカマルの家に足が向かう。
どうせいつものこと、ネコと一緒にだらだらしているに違いない。
予感は当たり前のようにあたって、屋根の上にいるのが見えた。
くす、と笑いをこぼして玄関へ。
ヨシノさんはウインクしながらいつものように「上がって」とだけ言った。

シカマルの部屋のドアをそっと開ける。
窓は全開で、風がふわりと髪を撫でた。
シカマルの後頭部が見えた。
口の端を緩めながらただただそれを眺めていた。
それはまるでいつもと同じだった。
違ったのは、音楽要素が苦手だと言っていたシカマルが珍しく鼻歌を歌っていたこと。

歌っているというにはあまりに小さいそれは、あたしくらいの距離にいないと本当に聞こえない大きさで。
聞こえてきたメロディーは聞いたことがあったかもしれない、けれどもどこで聞いたかわからない。
なのにすごく懐かしくて、暖かい気持ちになった。
思わず、その場に立ち尽くしてしまうほど。

「昔オレん家にあった、時計の音」

不意に紡がれた言葉。
あたしがいるのを知っていて、なおかつあたしが聞きたいことを知っていて。
ああもう。
なんでそんなに見抜かれちゃうかな。

「ああ、だからこんなに…」
「懐かしい、ってか?」
「…うん」

音を共有できること。
時間を共有できること。
気持ちを共有できること。
こんなに嬉しく思うのは、他でもないアンタだから。

チクタクチクタク。
部屋の時計の音より小さいシカマルのメロディー。

も少しだけ、聞かせて。

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2006/08/05




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43.新世界

ブラインドを上げると、そこは別世界だった。

一面白銀。
庭も道も全て雪に埋もれている。
木ノ葉の里は雪なんて滅多に降らない。
例えそれが木ノ葉最北端の場所でも、だ。
寒さで起きるなんてただ事では無いとは思っていた。
これなら十分すぎるほど納得がいく。
道理で寒い筈だ。
部屋でさえ、息は白かったのだから。

12月末の今、こんなにも世界が白に染まるなんて。
知らなかった。
こんな光景。
冷たすぎる空気に晒された頬も気にならない。
心が躍った。
ガラじゃないが、この窓から飛び出したかった。
時折ひゅぅっと吹く風を、いつまでも受けていた。

「シカマル」

呼ばれ、下を見やると極々見なれた姿。
ざくざくと音を立てて歩くその様はいつもと何ら変わらない。
違っているのは、コートにマフラー、手袋と完全防備している所か。
手を上げて気付いた事を知らせると、瞬間白い物体が。
どうやら見なれない光景に高揚しているのは自分だけでは無いらしい。

「バァカ、当たってたまるかよ」
「ナイスキャッチ」

素手で雪玉を掴むのは冷たい。
だが、気持ちいい。
一旦部屋に引っ込み、コートと手袋を出した。
階段を下りるより窓から飛び下りた方が早いだろう。
窓に手を掛けた。
もし落ちても大丈夫。
雪が受け止めてくれる筈。

自分で言うのもなんだが、珍しい事もあるものだ。
まだ朝食も摂っていないというのに。
耳を赤くして、新世界へと飛び込んでいった。

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2005/12/22

あなたはシカマルと誰が浮かびましたか?
当サイト的にはキバ、いの、アスマが妥当ですが、ナルトやチョージでもイけますよー。




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44.ソファー

ソファの背もたれに腕を乗せて煙草を銜える見なれた様。
その隣で寝転がって本を読んでいると、先ほどから痛いほどの視線。
それに気付きつつシカトをしていたのだが、そろそろ限界だ。

「…んだよ」

本から目を離さないまま。
反応を返さないアスマのせいで、放った言葉は部屋に溶けるだけ。
渋々面倒臭そうに首だけ向けると、髭面はようやく口を開く。

「…なぁ」
「何?」
「キスすると寿命が延びるって、知ってた?」
「…はぁ?」

そっと手を頬に添え、反応の言葉など待たずに唇を塞がれた。
突然の行為。
放たれる感情。
それらを受け止めるには荷が重すぎて。

ヤメロと行動で示したところで大人の力に適うハズも無く。
呼吸の合間に己の濡れた声が漏れるだけ。
流されてしまう。
何度も角度をかえて交わされる口付け。
次第に空いてしまった己に容赦なく侵入する舌が中を荒らす。
歯茎をなぞり、蠢き、上壁を嘗め上げるという慣れない刺激に身体がブルリと震えた。

読みかけのページは何ページだったか。
落として閉じてしまった本は、無情にも何も言ってはくれない。

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2005/12/04




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45.人生ゲーム

輪廻なんて面倒くさいだけだ。
人生は、一度きりでいい。

「はぁー…」

深呼吸するより深く肺から出た溜息。
お得意の『めんどくせー』と言っている様でならない。
それを無視して歩を進めた。
安い木の音が部屋に響く。
ゲームはまだ序盤。
先程火をつけたばかりの煙草の灰もまだ落とさなくていい。
落とすのは、こっちが先決。

「…次、お前の番だぞ」

なかなか進まぬ盤遊戯。
原因は自分にある事くらいわかっている。
それすら無視して進めようとするのは、決して相手を気遣っていない訳では無く。

「聞いてんのか?シカマル」

俯いた顔が少しだけ動いた。
寝てはいないらしい。
否、寝られるはずがない。

「めんどくせーよ、センセ」

やっと開いた口からは否定とも拒否とも取れる、つまりはそういった感情が零れる。
それだけ言うと、また固く口を結んだ。
いつもは生意気にも『アンタ』なんて言ったり15歳年上を呼び捨てたりするクセに。
こういう時に限って『先生』と『生徒』という線引きをするあたり、らしいと思う。
それでも、もう無理なんだよ。
それすら容易く越えてしまった感情なのだから。

「楽な選択じゃねぇって事くらい、オレだって分かってる」
「ホント、めんどくせー…」

気付かなければよかったと何度も思った。
それでもようやく認めたのは、多少なりに見込があると思ったから。
一度きりの人生、お前を巻き込むのも悪くない。
お前もそうだろ?

「……オレは言わねーよ?」

ようやく進んだ盤遊戯。
あっさりと桂馬で抜かされる。
ゲームはまだまだ序盤。
始まったばかりだ、楽しく行こうぜ。

「そいつは奇遇だな、オレも言う気はねぇな」

ゆっくりゆっくりと、でも確実に進む盤上。
手駒は互いに余裕があるのでいつまで続くかわからない。
長期戦?臨む所だ。
何年掛けても落としてやる。

向かい合った王と玉。
さぁ、勝つのはどっちだ?

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2005/12/28




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46.SOS

お前、シノとつるんでいたクセに、苦手なのか。

「Gー!」

新聞とスプレーを手にしてドタドタとキバが駆け寄って来た。
早く早くと背中を押され、スプレーを受け取る。
茶色の艶かしいボディがギラリと光ってタンスに駆け込んだ。
後ろでギャンギャン騒がしいキバは放っておき、隙間に勢いよくスプレーを噴射させる。
本当は新聞で叩いた方が早いのだが、床にへばりつくなんて嫌だと既に却下されている。
めんどくせー。

手際よく誘い出して片付けると、キバはいつものごとく離れた位置から礼を言った。
バカめ。
ちゃんと部屋を片付けないからこんな目に会うんだ。
部屋中に散乱している、しかしキバ曰く置いているのだというモノたちを一瞥し、部屋を後に

「シカマル…!」

した。と続きたかったのに。
なんなんだその目は。

「イヤだ」
「シカ…!」

だから。

「イ・ヤ・だ」
「…!」

無理だって。

「オレもう帰るから」
「……」

言ってるのに。

「あーもう…」
「シカちゃんだいすきー!!」

頭を抱えるオレの背中を無遠慮に叩くお前が憎い。
このクソったれ!

「でっけーゴミ袋、6つ持ってこい」
「っし!了解っ!」

明日になれば元に戻っている事くらい今までの経験から分かっているクセに、なんて自分は甘いんだ。

嬉々と部屋を出ていくキバの後ろ姿を見、暫くはこのゴミ部屋から帰れそうにないなと思った。

−−−−−−−−−−

もえるごみ×2・もえないごみ・プラスチック・危険物×2
キバの部屋は本当にゴミ溜め。

2005/09/14




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※11/11のつもりで読んで下さい。

48.放課後

「嫌です」
「ガーン!」

まだ何も言ってないのに!と騒がれたって仕方ない。
ポッキーを片手ににこにこされれば誰だってわかるだろ?
机に肘をついて明らかにけだるそうなポーズをすると、緑のパッケージをチラつかされた。

11/11はポッキー&プリッツの日だから!そんな感じでクラスの女子が騒いでいたっけ。
そんな訳で今日は昼休みはポッキー祭りとかなんとかかんとか。
いつもはやたらダイエットと騒いでいるクセに。
こういう事をするから太るんじゃないのか?
そんな疑問はキバの笑顔にかき消された。

夕焼けで教室が染まる。
校舎という校舎には殆ど人気がない。
校庭では野球部の連中の掛け声くらいしか聞こえない。
一番端のこの教室はもともと人通りが少ないので、今は全く人が来ないという状況で。

「つまりは出来レース?」
「それ、使い方間違ってるから」

ポッキーをプラプラさせながら言うキバに呆れる。
心情を読まれたのが悔しくて、いつもより鋭いツッコミを入れてやる。
そうこうしている内に、口にポッキーを突っ込まれた。
緑のパッケージはメンズポッキー。
ちょっぴりビターなそれは、極端に甘いモノが好きではないオレへの配慮か否か。

「はぁい、シカちゃんはそのままねー」

すぐに反対側からポリポリという音が聞こえ、キバの顔が近づいて来る。
しかも至極満面の笑みで。
バカヤロウめ。

パキン

「「あ」」

真ん中あたりで折れてしまったらしい。
机の上には可哀相なポッキーの欠片。
食べられる為につくられたはずの菓子。
こんなに汚い机に落ちてしまっては、いくらはたいても食べたくない。
チョージがいたら別かもしれないが。

「ごめ、もっかいやらせて」

そう言ってもぐもぐしながら1本渡された。
バカめ、そんなんじゃいくらたってもオレは食えねぇじゃねーか。
貰った一つを勢いよく噛み砕き、袋からもう1本取り出してくわえた。
バカか、オレは。

「するなら早くな」

自分を自分で見てられない。
キバの笑顔も見てられない。
目をきつく瞑ると、間もなく柔らかいモノが唇に触れた。



「…あのさぁ、シカちゃん?」
「ん?」
「これって、べろちゅーできなくね?」
「ばぁか」

やろうと思えばオレなら出来なくもねーけど?
煽るようなセリフは言わないでおくのが正解だろう。

−−−−−−−−−−

2005/11/14




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49.反射

意識するよりも早く、動いていた。

「…悪い」

すごくバツの悪そうな顔で謝られた。
違う。
確かに顔を背けてしまったけれど。
拒否したつもりなどない…と思う。
ただあまりにも自然にその手が頬に触れたから。
不意に距離を詰めたから。

「そういう気分じゃねぇだけだから」

気分もクソもない。
気の利いた言葉が出てこなくて歯がゆい。
本当はしてほしい、だなんて口が裂けても言えない。
だって、まだこういう事をするのに抵抗がある。

「じゃあしたくなったら言え」

ニヤリと笑って言うこの大人が悔しいくらいに。

「したくなったら、な」

嫌いじゃない。

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2006/08/17




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50.煙

いつからだったか。

「コラ」
「あいてっ」

ゴチ、と殴られた頭がジンジンした。
それは絶対煙草のせいだけじゃない。
奪われた煙草はうっすらと煙を出しながらアスマの手に納まっていた。

「オマエにはまだ早いだろ」

その目がイヤなんだ。
いつもは見せないクセに、こういう時だけそんな。
分かってる事を分かっているクセに。
オレがどんだけ求めているかくらい。

いつからだったか。
こっそりと吸うようになったのは。

アンタの香を、求めるようになったのは。

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2005/09/12




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