22.四面楚歌

切り出した言葉。
実に、淡々と。

「世界中の誰もが敵に回ったとしても、オレはお前の味方だからな」



オレは確かに運がいい方ではない。
前に、部下に言った事を覚えている。
自分にも言い聞かせているように思えたのはそれからずっと後の事だった。

生まれた世界は忍。
闇に生き、闇に死すべき命。
憧れた父は世に後ろ指を指された。
やっとわかり会えた友は戦死した。
暖かい場所を持っていた師は里を守り英雄となった。

命の灯はなんと儚いものか。
大切なモノを守れないこの非力さ。
悔しくて、悔しくて、それでもこの汚い世を生き抜いてきた。
『世界がそれを望むなら、謹んでそれを受けよう。』
そんな綺麗な心、持ち合わせてなどいないというのに。

それなりに力をつけた頃、暗殺部隊に任命された。
ギラついた心はやがて荒み、闇に堕つ。
深く深く…不覚。
ドロドロの世界の中、それでも安らぎを求めていた。
見つけた薄暗い温もりは、手放したくなかったのに。

共に再び光を浴びた後、オレは頼りきりだった事に気付く。
オレの安らぎにはなっても、アイツの安息地にはなれなかったんだ、と。
思い知らされ、なんとか振り切った。
振り切れた。
オレにも守るべき大切なモノが出来たから。

思い上がりだったんだ。
オレでも守れると思っていた事が。
見え隠れしたヒビはやがて広がり、チームを壊してしまった。
止められなかった。
何年経ってもオレはオレのまま。
非力で。
実に、滑稽だ。

そんなオレを、ずっと見ていた奴がいた。
知ってた、その存在を。

けれども見て見ぬ振りをしていた。
だって、綺麗すぎる。
オレが触れただけで、その一瞬で汚れてしまいそうな程の、白。
その存在は、赤が舞っても穢れる事などなかった。

オレはこいつに触れない。
そう、思っていたのに。

切り出した言葉。
実に、淡々と。

「世界中の誰もが敵に回ったとしても、オレはお前の味方だからな」

勘違いをしてしまうではないか。
オレが触れてもいいと。

真直ぐ見据えたその眼に、一瞬で捕らわれた。

お前が勘違いをしてもいいというのならお前の全てをくれないか。
代わりといっては難だけど、オレの全てをくれてやる。
お前がいいというのなら。
オレの全てを渡すから。

お前は、いいよね?

−−−−−−−−−−

2006/04/22




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23.時の流れ

動き出した時間を止める術を、僕らは知らない。


はらり、落ちたのは桜の花びら。
ふわり、揺らいだのは澄んだ水面。
決して止まる事の無い時間が刻むのはロクでもない歴史と周りの空気。
刻まれたそれらは一瞬で未来から現在へ、そして過去へと進んで行く。

止まらない。
例え手を伸ばそうと、体中で受け止めようと、一瞬で過ぎ去って行くのだ。
それは幻のような事実。
だから先ほど吐き出した言葉とて、もう随分と昔の事のようで。
忘れてしまった。
忘れてしまったよ。
彼は、いや、もしかしたら彼女は。
一度手放したら戻ってきてはくれないのだ。

だからもう一度、と言われても困る。
非常に、困る。
いっその事無かった事にして頂きたい。

きっともっとずっと時間が過ぎ行けば。
刻まれた一瞬は止めどない大量の時に紛れて夢か現かわからないものになるだろう。

知りたかったら泳げ。
逆らえ。
足掻け。

「最初に言った筈だ、一度しか言わないって」

ふわり、揺らいだのは澄んだ水面。
はらり、落ちたのは桜の花びら。
ぽつり、呟いたのは君への好意。

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2008/03/22




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24.ごまかし

「シカマル」

キバが自分の名前をこう呼ぶ時は、いつだって真剣な時だけだ。
それを知っているからこそ、今はまだ呼んで欲しくはなかった。
何となく、空気を察してしまう。
キバの開いた瞳孔が刺さるようで痛かった。

「オレ、オマエのことすきだよ」

言葉の意味を理解するのには左程時間はかからなかった。
キバの言う『すき』は友達としてではないことくらい理解出来た。
だが、自分もそうだと言うには危険すぎる。
確かにキバの事は嫌いではないし、むしろ好意を持っている方だと思う。
しかし、その好意が恋愛対称としての好意かどうかはわからないのだ。
ましてや男同士。
恋愛経験の乏しい己にとって、見極めるのは至極困難である。
『好き』ではあるかもしれないが、『すき』ではないかもしれない。
本当は自分では答えが出ているクセに、どうしてまだ悩む必要があるのだろう。
相手の気持ちがわかっているというのに、どうして。

「なぁにめんどくせーこと言ってんだよ」

バカだ。
もっといい選択肢ぐらいあったのに、なぜこの言葉を選んでしまったのか。
こんな誤魔化し、キバを傷つけるだけだというのに。

「えー、オレのことスキじゃないの?ひっでぇシカちゃん!」
「あーウゼェ」
「オレはこんなにダイスキなのに!」

真剣味を帯びていたキバから緊張が消えてしまった。
さっきのは冗談だよと言わんばかりに振る舞うキバが、とても大きく見えた。

待っていてくれるつもりなのか。
オレがちゃんと言えるようになるまで。

ああ、やはりさっき迷ったのはバカだった。
もっと素直になっていたら、キバを喜ばせてやれただろうか?
もっと素直になっていたら。
もっと素直に。
もっと。

傷ついたであろう彼を、らしくもなく抱きしめてやった。

ぎゅっと。

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2005/09/28




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26.蜃気楼

勘違いをしているのだ。

名を呼ばれ、振り向くとまるで情事の最中を思わせる様な視線を向けていたものだから心底困り果てた。
例えば人の物だったら何でも欲しくなる子どものように純粋で残酷な感情がまだこの中にあるとしたのなら。
迷う事なく勘違いをそれと思わず受け入れ、本能の赴くままに抱いただろう。
けれども残念な事に自分にそのような感情が残っているはずもない。
無駄に成熟してしまった精神だけがふつふつと彷徨っているだけだった。

意地もプライドも恥も外聞もかなぐり捨てた彼に送るのはスタンディングオベーションなどではない。
憐れみの感情と人並みの体温。
そして、あるはずもないエクスタシー。

「…いいけど、」

例えるならば、それは蜃気楼。

「後悔するなよ?」

掴み損ねる掌は、いつだって準備できている。

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2007/02/26




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27.骨

いつかは死ぬってこと。
わかってるつもりだった。

「なぁ」

血なまぐさいそこにオレらは立っていた。
火影直属を表すその忍装束はほぼ真っ赤だ。
いや、正しくは真っ赤ではない。
黒ずんだ汚い赤、か。

頬に付着した己のものではない赤を拭う。
頬に赤が走った。
クソ。
悪態を吐いて、刀を右手に持ち替えた。

キバは少し離れたところで周りを警戒し続けていた。
鼻は既に血で使えなくなっているというのに。
それでも先程からピンと張り詰めた空気を察しては、新手の襲撃を教えてくれる。
何度目か。
五度目だ。
戦乱に身を投じたのは己の意志だが、まだ死にたくない。
それでも身体は既に限界を告げ、節々が悲鳴を上げていた。
仲間は、まだか。

「なぁ、キバ」
「なぁに?」

安心させるかのような声。
そんな役回り、慣れてないクセに。

「帰ったら、何食おっか?」

息が、途切れ途切れ。

「肉。シカマルは?」

笑った顔に、一筋の、血混じりの、汗。
それでも、確実に帰ってくる返事にこんな状況下でも嬉しい。

「オレ、サバ味噌」
「そ」

敵は三人。
背中合わせになり、印を組んだ。
もう殆どチャクラがないというのに。

「キバ」
「なぁに?」
「骨は拾ってくれ」
「ばぁか」

グィーン

影が三方向に伸びる。
一人目を捕らえ、二人目を捕らえ、三人目には避けられた。
捕らえた二人に影首縛りをし、三人目にクナイを投げ。
クナイを避けた敵の背後にキバが現れて、その首を。

「オマエは、帰るんだよ」

へし折りながら印が解けそうなオレに言い放つ。
その声には答えられそうにない。
だって、身体がいうことを。

「オレと、サバ味噌の為に」

その背中はヤケに大きく見えて、まだ死ねないなと思ってしまう。

いつかは死ぬってこと。
わかってるつもりだった。
だけどそれは今じゃない。
今すべきなのは、キバとサバ味噌の為に生き抜く事だ。

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2005/09/13




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28.映画

「なーんか、チョコレート食べたくなっちゃった」

さっきまで見ていたのは75年制作の元祖の方。
去年リメイクされたものがあったけど、どうせなら…ということでこっちから見る事にした。
僕の家のテレビは最近オンデマンドにしたばかり。
そのお陰か、先週からいのが僕の家に遊びに来るようになった。
昨日は何の映画を見たんだっけ?
ここ毎日のように見ているから昨日と一昨日がごっちゃになっている。
それだけ、いのが僕と一緒の時間を過ごしているという事でもあるんだけど。

「簡単なのでよろしければ今からお作りしますが?」

こういう時、自分がパティシエでよかったと思う。
まぁ、まだ見習いなんだけど。
エプロンを手にキッチンへと向かった。
わざとらしくポーズをつけて言うと、いのもオジギをしちゃったりして。

「よろしくおねがいしまーす」

いのには笑顔がよく似合う。
つられてにへら、と笑ってエプロンを腰に巻いた。
最近戻ってきたいのの笑顔が嬉しくて、ちょっぴり痛かった。

キッチン横の棚を調べると大量のポテトチップスがあった。
目当てのモノはこれじゃなくて。
その奥に製菓用のチョコレート。
そうそう、コレコレ。
冷蔵庫には確か昨日買った生クリームがある。
こっちの棚には…ビンゴ。ココアパウダーがあった。
ラムとブランデー、いのはどっちが好きだっけ?

「じゃ、作りますか」

甘くておいしくて太らないやつ。
いののオーダーはいつも厳しい。
そんなもの作れるはずがない。
だからせめて。

「何作るの?」
「トリュフだよ」
「やった!」

甘くておいしくて思わず笑顔になっちゃうようなの作るから。
それが今の僕にできる、精一杯の。

「…チョウジ」
「んー?」
「ありがと」
「いいよー、材料ちょうどあったし」
「そうじゃなくて、」
「……」
「…ありがと」

伝わってた、みたい。

ついつい嬉しくなってしまって。
チョコレートを刻む手が、心臓と同じくらい速くなってた。

「っあ、明日、何見る?」
「勿論、チャリチョコよー!」

明日はガトーショコラにしようかな。
刻みすぎたチョコレートを見て思った。

−−−−−−−−−−

2006/05/04




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29.炎

「バーカ」

シンとした部屋に出来る限り軽く乗せた。
あまりに突然の出来事だったので、すぐにこの状況の詳細を語るには些か難しい。
強いて言うならば、その数秒の内に視界が切り替わっていたのだった。
別段いつもと変わらない筈だったのに。

夜に蛍光灯の眩しさは必要無いと、ロウソクを2、3本立てたのはただの気まぐれ。
白く味気のないロウソクは部屋の空気にゆらゆらと頭を揺らす。
どうせならすぐさま消えて欲しかった。
唯一の灯りが顔を赤く写し出す。
お陰でこのどうしようもない状態が、視界から理解してしまう事になる。

あまり弾まないスプリングがギシリと音を立てて少しだけ焦った。
そんな煽り、今はいらない。
夜という環境が無駄な部屋の静けさを鮮明にさせる。
秋は殆ど過ぎてあまり薄着ではいられない季節なのだ。
人肌恋しい季節というやつなのだ、きっと。
だからに違い無いと心に教え込む。
だって嬉しいのか困っているのか悔しいのか怒っているのか楽しいのかわからない。
誰かこの感情を教えてほしい。
答えの出ない状況で、こんな状態にさせた当の本人は何かを請うような目で見やるもんだから仕方ない。
ここまでしておいて最後の判断をこちらに投げるなんて。
答えなんて既に出ているのに。

でもオレは、さ。
その人間くさい所が嫌いじゃないよ。

−−−−−−−−−−

2007/11/28

某様宅のアスシカ絵より。




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30.命

人はいつか死ぬよ。

そんなフレーズを、自分は確かに言った。
頭ではわかっているんだ。
心が追いつかないだけで。

あの人とは酷い別れ方をした。
喧嘩別れというか何というか。
擦れ違ったまま、時は流れた。
そして、あの人は去った。
懺悔の言葉すら、もう届かない。
後悔だけが私を蝕んでいく。

初めは涙すら出なかった。
悲しくなかったんじゃない。
信じられなかったのだ。
嘘だろう?
だって、まだ謝っていないのに。

プツリと何かが切れた。
途端、嗚咽を洩らすような呻き声を上げた。
涙が止まらなかった。
しゃくり上げた声が不安定なまま空に散っていった。

あの時の私はあれが最後の別れだとは思いもしなかった。
数年の月日が溝を埋めてくれると。
また引き合わせてくれると。
根拠も無しに確信していたのだから。

人はいつか死ぬよ。

いつなんてわからない。
人は儚い生き物だから。
後悔の無いように生きよ。
取り返しが付かなくなる前に。

どうぞ安らかに。
そして御冥福を。

−−−−−−−−−−

2005/09/26




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