11.滴

たった今まで冷気に包まれていただろうペットボトル。
自動販売機から取り出されたそれは、程なくして汗をかき始めた。
夏はとっくに過ぎたというのに何故こんなにも暑いのか。
疑問は脳まで届いてはくれず、上の方でぐるぐると渦を巻いているだけだった。

パシュ、という小気味よい音を立ててキャップが開けられる。
うっすらと冷気が出ているのを確認する間もなく口をつけた。
初めの一口が薬の味のように思えるアクエリアス。
それでも口腔は一気に冷えた。
喉が上下し、冷たい液体はさらに奥へと進入して行き体温と混ざりあう。
味の確認など二の次で、今はただただ水分を欲した。

気が付いたら既に全て無くなっていた。
足りない。
ポケットをまさぐり硬貨を二、三枚手にし、投入口へと乱暴に入れた。
先程と同じボタンを握り拳で叩くように押す。
ガコンという鈍い音を立てて落下したそれを手にし、同じ行為を繰り返した。
流石に腹は満足したらしい。
一息付くころには半分ほど残っていた。
気温や己の手の温度差で発生した滴が手をビチョビチョに濡らす。
シャツの裾でそれを拭い、ペットボトルを持て余していた。

「もーらいっ」

ひょいと奪われたスポーツ飲料水はシカマルの手に納まっていた。
キャップを開け、一気に流し込む。
目が離せなかった。

「わ、ヌルくなんの早くね?」

勝手に飲んでおいて文句を垂れながら、ほい、と返された。
異常に軽くなって帰ってきたペットボトルだが問題はそこじゃない。

今、口…

思考が追いつかない。
あれは自分が先ほどまで飲んでいたジュースで。
シカマルが奪って飲んだワケで。
あれは自分が先ほどまで飲んでいたジュースで。
オレは口をつけていたワケで。
シカマルが奪って飲んだワケで。
即ちシカマルも口をつけたワケで。
つまりアレは…

やっと答えが出たところで、心臓がビクンと跳ねた。
ただでさえ暑いのに、体温が上昇した事により更に暑く感じられた。

しまった。
すごく嬉しい。

戻って来たペットボトルのキャップを再度開けた。
少しでも体温を下げる為と自分も間接キスをする為だ。
しかし、口を近付けようとした時に異変に気付く。

「あり?中身…」
「ああ悪ぃ、全部飲んじまった」

オーバーリアクションでしょげてみると、シカマルに引っ張り起こされた。
瞬間、シカマルの顔が近づいて。
柔らかい物を押し当てられたと思ったらすぐに顔が離れた。
シカマルが真っ赤な顔をしていたので、ようやく事態を把握した。

「シカちゃん…!」

感極まっていると、重大な事に気付く。
しまった。
感触を堪能していない。
初めてシカマルからしてもらえたのに!
しかし、ここで調子に乗るといけないのは今迄の経験からみれば歴然。
学習したオレは、またの機会をじっくり待つ事にした。

待ってろ、シカマル!

−−−−−−−−−−

2005/09/27




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12.曇

晴の日のほうが空を眺めやすいと寝転がりながら笑った。
青と白灰のコントラストがきれいだと。
オレンジ、ピンク、赤、紫の夕焼けがキレイだと。
目を細めてゆるりと笑ったのだ。

きっと晴のように眩しいわけじゃない。
けれども雨のように悲しいわけでもない。
かといって雪のように冷たくやさしいわけでもない。
だから雷のように激しくないシカマルはきっと。
曇のようにおだやかで、はっきりせずに曖昧に生きるのだと思う。

だから、オレは。

「曇の日もさ、悪くはないと思うわけよ」

ちょっとだけ、必死に言った。

−−−−−−−−−−

2007/08/02
2007/08/11up




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13.通り雨

「っわー最悪」

上から下までびしょ濡れ。
俗に、この状態を濡れ鼠というらしい。
え?違う?
おっかしいな、シカマルから聞いたんだけど。

「何でこんな日に来ちゃうワケ?」

確かに、人の家に来てまでシャワーを借りるのはおかしいと思う。
でも仕方がないじゃないか。
今日の天気は晴れとか言っていた天気予報師が悪いんだ。
だから、そんな大層迷惑そうな顔をしないでくれるかな?
オレの繊細なハートが傷ついちゃうんだけど。

「会いたかったからじゃだめですかね」

キリリとした顔を見せると効果は二倍。
まったまたそんな冗談。
シカマルの呆れ顔がおもいっきり溜息を吐いた。

タオルとTシャツとズボンを借りて、オレの服が乾くまで待つ。
『ヘタレ上等』と書かれたTシャツを着るのは少々羞恥プレイかと思わずにはいられない。
オマエ、ちょっとどうかと思うぜ?コレは。
まぁ、そんなオマエもかわいんだけどね。
コレを着たシカマルを想像したら予想以上に面白かったので良しとしよう。

「なぁに笑ってんだよ」

そういうシカマルも、笑ってた。

既に止んだ豪雨。
でも。
オレの胸の高鳴りは、もう少し続きそうです。

−−−−−−−−−−

2005/09/11




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14.虹

そうなんです。
オレ、こう見えてロマンチストなんです。

豪雨の通り雨は過ぎ、大きな虹をつくっていた。
窓辺から見えるその景色は、まだ少しよどんでいる空にしっくりこない。
紫陽花にひっつくカタツムリを弄りながら、シカマルはこういう空もすき、と言った。

オレは小さい頃、虹はどこからどこまでかかっているのだろうと思っていた。
だって円なんて、アレをみて誰が信じるんだ。
そんなワケで、いつか虹の上を歩いてやろうと思っていた。
それなのに、アレは近づくと音もなく消えていく。
ズルイじゃないか。
オレはまだ、七色の橋を歩いた事がないのに。

「オレも、そう思ってた」

オレの話を静かに聞いていたシカマルは、少しだけはにかんだ。
適当に流されたり笑われるのだと思っていただけに、意外な反応に驚きを隠せない。

「いいよな、虹」

そう言って再び空を仰いだシカマルは、きっとオレよりロマンチストに違いない。

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2005/09/16




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※9/30のつもりで読んで下さい。

15.カレンダー

久しぶりのキバの部屋は、やはり散らかっていた。
どうしてもって言うから折角遊びに来てやったってのに。
しかも、差し入れを持って。
こんなもてなし方するのはキバくらいだろう。

「まぁ、適当に座ってよ」

座れと言われても場所がない。
少なくとも、自分の見解では。
足下には音楽雑誌、漫画、巻物、CD、洋服、ドッグフード…
どこに座れと。
ずっと立ち尽くしていたが、時間の経過はオレの手を痛めつけるばかり。
ペットボトルとスナック菓子の入ったビニル袋が手に食い込んで痛いのだ。
仕方がないので、机の上のモノを落として重たいペットボトルを下ろした。

「お、コレって!」

キバの目がキラキラと輝いた。
そうだろう、だってファンタの新作。
新しいもの好きなキバの為に1.5リットル。とても重たかったです。
そしてスナック菓子はチョウジの御墨付き。
なんやかんやでオレはとてもキバに甘いらしい。

「コップ取ってくっから」

嬉々と部屋を出ていったキバがいなくなると、部屋は異常に静かに感じられた。
当たりを見回すと、関連性の無い物がとりあえず散らばっているといった感じだ。
前に来た時もこんな風だった。
…いや、前に来た時の方がまだマシだったかもしれない。
そんな中、ふとベッドの上にかけてあるカレンダーに目がいった。
文字だけの無機質なカレンダーは、なんとなくキバっぽくはない。
似合わないカレンダーには赤で大きな丸が一つだけ書かれてあった。
ぽつんと。
それだけが書いてあったのだ。

…ヤバい。
これは、ヤバい。
思わず顔が緩んでしまった。

ガチャ、とドアが開いた。
ニコニコしながら入ってきたのは勿論部屋の主。
振り返りはしない。
今の顔は見られたくない。

「おーまったせ!」

キバの無駄に大きな声が、今は丁度いい。
自分の心臓の音が聞こえてしまわないよう、もっと大きくてもいい。

9月のカレンダー。
丸があるのは22日。

今日明日、捲るのを躊躇(ためら)ってくれるといい。
オレは、躊躇ったから。

−−−−−−−−−−

2005/10/04




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16.陽射し

「暑いな」
「うん、知ってる」
「ちょっと木陰で休むか」
「ああ」
「それともオレん家くるか?」
「ああ」
「どっち」
「どっちも」

バカじゃないかと思う。
なんでこんなに太陽は元気なんだろう。
お陰でオレの頭がバカになってしまうではないか。
アスマは大人なので笑ってじゃあオレん家で何か冷たいものでも食うかと言ってくれた。
通い慣れた道を足取り軽く進む。
何があるのか問うと、アイスとすいかとかき氷だと言われた。
おっさんの家にそんなモンがあるのだと思うと、笑える。
アイスがいいなと言うと、しろくまとチョコバーとガリガリ君のどれがいいか聞かれた。
しろくまってかき氷じゃないのかと問うと、それは店のだからなだなんて言われた。

「じゃあチョコバー」

若干しろくまに食い付いといてなんですが、オレは今チョコレートみたいな甘さを必要としているんだと思う。
だってこんなにも、汗がだらだら出ているんだ。
額から鼻の横を通り、口のギリギリ横を通って顎から落ちた汗。
拭うことも面倒臭くなってしまった。

ジリジリジリジリ太陽が肌を焦げ付かせる。
赤くなるから嫌なんだよな。
…だけど。

「アスマ、早く行こ」

アスマの家を避暑地にできるなら、こんな暑さもイヤじゃない。

−−−−−−−−−−

2006/08/02




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17.宇宙

支給されたばかりのジャケット。
真新しいそれはどうにも見なれない。
茶化して言ったおめでとうは本心なんかじゃない。
それを互いに分かっているから悔しかった。

一人でそんなトコに来ちゃって、本当はさみしいんだ。
ちょっと心細いのだって、わかる気がする。

「すぐに追いついてやるんだからねー!」
「…ああ」

遠くに行ったってすぐに。
それが例え宇宙でも。

−−−−−−−−−−

2006/09/09




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18.流れ星

絶対に無理だ。
キラリと光るのなんてたったの一瞬。
その間に願い事を三回も繰り返さないといけないなんて。
無理に決まっている。
…それでも。
ブツブツと願い事を三回繰り返しているオマエを見たら、何も言えなかった。

「シカちゃんはどんな願い事した?」

無邪気に笑うもんだから、願ってしまうではないか。
今度流れ星を見た時に、どうかその笑顔が絶えぬようにと。
願ってしまう。

「オマエはどうなんだよ?」
「オレ?オレは『いつまでもシカちゃんと一緒にいられますように』って」

願ってしまう。
絶対。

−−−−−−−−−−

2005/09/29




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