考えてしまっては駄目だ。
その時点で否応が無しに意識してしまっているのだから。
だが、そう思う事すら遅かった。
既に始まってしまっていたのだ、ソレは。



『めんどくせー』



感情の動きというものは自分にしかわからないのに、時に自分でもわからない。
それを考え過ぎだと人は言うけれど、どんな時も最大限まで考えておいたほうがいい。
それをめんどくさがる人がいるけれど、何も考えずに後でもっと面倒臭い事になるほうが嫌だった。
詰まる所、考えるのが苦痛では無かったのだ。
そんな自分が考えるのも面倒だと思うのは実に稀だろう。
しかし、それは事実だ。

人に好意を抱くという感情は永遠の謎にしておきたい。
でなければ、今まで自分が生きてきた云年間の常識を白紙に戻さなければならない。
はっきり言おう。
アスマのことは嫌いじゃない。
どちらかといえば好きの部類に入る方だ。
しかし、それは恋愛の対象なんかじゃない。
恋愛、なんてピンク色した対象なんかじゃない。
そんなの、こっ恥ずかしくて軽く羞恥で死ねそうだ。

「どうしたよ」

どうしたもこうしたも。
先ほど放たれた言葉に動揺しているに決まっているではないか。
それが判らぬ程この大人は馬鹿じゃない。
かといって、この言葉に心配の含みもありはしない。

自分は何を迷っているのだろうか。
適切な返答が見当たらない。
自分もキライではない、ということを言えばいいのに。
本当の事だもの。
けれども、変な誤解もして欲しくなかった。
あくまでそれは人間として、であって、恋愛なんていうものなんかではなくて。
でも、その説明をしている自分を想像すると、それはそれで滑稽だ。
何だか1人から回りしているみたいでいたたまれない。
こういう時、考え過ぎはよくないと後悔する。
後悔したところで、何も変わらないのだけれど。

「あー…アンタ、かなりめんどくせーよ」

ひねり出した言葉はきっと間違いなんかじゃない。
通常の自分だったら、多分こう言うだろう。
否定も、肯定もしない。
これが正しい。
あるべき自分だろう、きっと。
正しいなんて誰が決めたんだろうという考えは、今は暫し放置して。

「お前はいっつもそれだな」

笑いながら返ってきた言葉はいつも通りのトーン。
さっきまでの変な違和感は消え、駒を弄る手がいつもの状態を表していた。
さんざ弄り倒された駒はやがて盤へ降り立つ。
パチリ、なんて音は、先ほどまでには出せなかった。



『お前、相当オレの事すきな』



何だったんだろう。
さっきのは。

いつもと変わらぬ中、それだけがイヤに浮いていた。





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多分2005年産。(06/11/14 発掘)
『アスシカで10+aのお題』




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