吹く風はちょっと前まで蒸し暑かったのに、今はもうカラッカラに渇いている。
寒いわけじゃないけれど、肌がつっぱるようなこの感覚がどうも好きになれない。
女はしきりにリップクリームを塗りたくっては細かいゴミの欠片を唇に張りつかせている。

「ぜってー気付いてねェよな」

シカマルがチラリと視線を送りオレに促すので、オレも控えめに笑ってやった。
上下に動くその唇は、やっぱり風に曝されているので潤いなんて皆目検討もつかない。
まあ、男の唇がぷるぷるしててもキモチワルイだけだけど。
かといって切れて血まみれも嫌なので、オレは秘かにリップクリームを忍ばせている。
しかし先程の様子からみると、どうにもシカマルには女々しいと笑われそうでとても癪だ。
オトコノコだってですね、これくらいの気は使うってもんですよ。

「シカマルくん、シカマルくん」
「んあ?」
「えい」

唇に押し当てられた違和感と、嗅ぎ慣れないメンソールの匂いにひどく顔を顰められた。
それでもすぐに振払わない所がなんともシカマルらしい。

「コレ、何」
「リップクリィムです」

わざとらしく言ってやると、ふーんと言いながらまじまじと見つめた。
案外寄り目になっちゃうくらいには興味を持ったようだ。
するとしっとりとした感覚に気付いたらしく、急にその黒い目をぐるりと向けた。

「おーなんだコレ!すげーなオイ」

いたく気に入ったようなので、とりあえず全貌を見せてやる。
深緑のパッケージを掌に納めてやると、何だかそれが元からシカマルの物だったかのようにしっくりときた。
へーとかはーとか言いながらいじり倒されるオレのメンソールリップクリームスティックタイプ525円税込。
スティックのりみたいだなんて言いながらくるくるくるくる…ああ、もう。
興味津々ですか。
そんなお前もすてきです。
なんつーかもうそれお前にやるからさ、代わりにお前をくれませんか。

「シカちゃん」
「ん?」
「ちゅーしたい」
「無理」
「や、無理がムリ」

頭を両手でわしりと掴み、観念しろと視線を送ってやった。
頭を左右に揺すられたせいで狙いが定まらない。
歯が当たらない程度に唇を持っていくことが、こんなにも難しいだなんて。
それでもぺろりと己の唇を一周し、男の割には柔らかいそれに口付けた。
眉を下げながら苦しそうに、ん、というシカマルの目はきつく閉じられたまま。
それを見るのがすごくすごくすきで、ついついいつも目を開けてしまう。
悪趣味、だなんて言われたって気にしない。
けれども今日ばかりは、塞いでいたソレをいつものように舐めると気分は一転。

「…ぉうぇ」

ムードなんてあるはずがない。
零れた言葉は全ての事に対してあまりに無関心すぎた。
だから言ったのに、と言わんばかりの顔をしてシカマルがこちらを見た。
ああ、そーいうこと。

どんだけオレのこと心配してくれてんの。

離れてしまった唇。
まるで引力でくっついてしまうくらい自然に。
軽い音を立てて着地。

はしゃぎすぎた秋。

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書:2006/09/15
上:2006/09/23

謝々:Vanira@恋愛中毒

ケモノに5のお題
┗01:無理やりな行為




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