オレが息絶えたのは、風がやけに涼しい、こんな秋の事だった。




秋雨のち、晴れ




ああもう死ぬんだと悟った後、戯れにもあの世をほんの一握り期待した。
でもそんな期待も過去の所行を振り返ればすぐにわかる事だった。
とてもじゃないが、天国なんて行けやしない。
忍という道を選んで、一度は疑問に思って、でも結局は戻ってきた。
最初から最後まで、実は自分で選んでいた。
その道で得たものが全てだったから、その選択肢を後悔などしないけれど。

この世界の景色をいつまでも焼き付けていたくて、目を閉じたくなかった。
それでも気付いたら意識を手放していて、気付いたら "ここ" にいた。

瞳を閉じて世界が終わるなら、瞳を開いてまた世界が始まるのだろう。
そうやって世界が出来ているんだろう。
自分の世界の中心は、他の誰でもない、自分だ。

森の中を意図せず走る。
動こうと思って動いている訳ではない。
まるで何かの殻に、器に、入れられたような、魂のような存在。
鏡なんて持ち合わせていなかったし水面なんてそこらになかった。
だから自分を自分たらしめるのはこの精神と、他人に呼ばれた時の名だけ。

「お前……、猿飛アスマか?」

遠い記憶に見慣れた顔が、自分を向いてその名を呼ぶ。
ああ、自分は猿飛アスマなのだと。
まだ、猿飛アスマでいられるのだと。
思っても、殻であるこの身体から涙などは出なかった。

話を聞いた限りでは穢土転生という術で魂を呼び戻されたらしかった。
精神はそのままに魂を縛られ、身体を縛られ、ふと脳裏に浮かんだのは。

「お前ら……」

土煙の向こうに見える三人の姿。
少し見ない間に顔つきが変わった気がする。
なあ、オレは一体どのくらい寝ていた?
心の中で問いかける。

覚悟は出来ていると告げるシカマルに、思わず言葉を漏らす。
三人の成長を心から喜んでいるこの気持ちは間違いなく自分のものだった。

忍という道を選んで、一度は疑問に思って、でも結局は戻ってきた。
最初から最後まで、実は自分で選んでいた。
その道で得たものがなんだかんだで全てだったから、その選択肢を後悔などしない。
どんな目に遭おうとも。
後悔など、する筈が無かった。

戦争中に、なんて不謹慎だろうと思う。
かつての生徒の成長をまさか見れるなんて思わなかったから。
『良かった』なんて言わない。
『嬉しい』とも言わない。
ただ、伝えたかった。

ありがとう。

口になんて出したら興醒めだろうから他の言葉を添えて。
今度はちゃんと、笑って別れたくて。
晴れやかな気持ちで。




「お前らにはもう何も言う事がない。まさに完璧な猪鹿蝶だった!」




オレが意識を手放したのは、風がやけに涼しい、こんな秋の事だった。

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2012/10/18


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