89.泡
泡みたいな人だと思った。
掴もうとしたらするりと消えてしまう様な、きれいな人だと。
「キバ、おいで」
手をひょこひょこ動かして胡座の上に座るよう促される。
少々の恥ずかしさを持って、それでも嬉しくてちょこっと座る。
抱き枕のように後ろから抱きすくめられ、頭の上に顎が乗った。
手が冷たい。
時々思う。
触れる手は何か別のものを触っているような気がする。
二回りくらい大きなこの手が忍の物にしては長く骨格がいいことを知っている。
笑う目も何処か別の場所を見ている気がする。
ほんの少し虚ろげな眠たげなこの目は瞳孔が開くくらいになるのを知っている。
ふわふわふわふわ。
儚くて切なくて苦しくて。
そんな感情をすべて無節操にぐりぐりと押し付けてくるのにどこか嬉しくてならない。
守られている。
けれども、守りたいと思う。
ニコニコしながら平然と言う、
「君をさあ、きれいに殺してはく製みたいにして飾っときたいっていっつも思うよ」
このどこか欠落した大人を。
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2007/06/21
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