88.手探り

部屋の電気はまだつけていなくて。
だから僕はいのの顔が見えなかった。

手をそっと持ち上げる。
いのの頬に触れた。
くすぐったそうな声を出したいのは、それでも僕の名前を呼んだ。

愛しい。
なんて愛しい。

小さい頃からずっと側にいた存在。
毎日のように聞く声。
見る顔。
いるのが当たり前の存在。
なんで、今更こんなに愛しいんだろう。

初めて抱く感情じゃないんだ、きっと。
でも心のどこかでずっと何かが引っ掛かっていて、それをどうにかしなくちゃ駄目な気がした。
僕はどうにか出来たのだろうか?
今もわからない。
ただわかるのは、いのの柔らかいほっぺたの感触だけ。

「…すきだよ」

声に出した分、どんどんすきになっていく。
さっきよりももっと。
ずっと。

すきって気持ちはいつまで有効なんだろう?
僕はきっとずっと前からいののことがすきで、すきで、すきすぎて。
大切にしたくって、だから壊したくなくって。
触る事すら恐れていた。

僕とシカマルどちらかが欠けてもいのはいのじゃいられなかった。
シカマルが悪い訳じゃない。
ただどちらかが出っ張ってもいけなかったんだ。
シカマルの穴をうめる訳じゃない。
ただ、シカマルの分、僕も少しは出っ張るべきだと今は思う。

この気持ちは「すき」なんて言葉じゃ到底足りない。
足りないけれど、残念ながら僕はボキャブラリーが貧困なので他の言葉が見つからない。
愛を囁くなんてそんな事できやしないけれど。
ありきたりの言葉で、君に愛を捧げられたらと思う。

なんて不器用な僕ら。
手探りで愛を求めてる。

頬に触れた手をそのままに、今君に口付けをしよう。

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2006/06/06

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