38.プレイス

思い出す。
あの、場所。

久しぶりに足を運んだアカデミー。
用事がなければ殆ど来る事などない。
昔と何ら変わらなかった。
思い出はそこにあった。

階段を曲がってすぐの教室に入る。
そこはアカデミーの中で一番馴染みがあって、一番好きな場所だった。
この教室の窓際の席。
今はもう机や椅子が小さく感じられて少し窮屈だったけれど。
間違いなく、自分の好きな場所。
この窓から見たあの背中を今でも覚えてる。

当時アカデミーで有名だった人物、はたけカカシ。
銀色の髪はすぐに眼につくはずだったが、それもその筈。
同い年の彼は、眼に見えぬ速さで卒業していった。
擦りも、しなかった。
辛うじて、授業中にこの席から一度、後ろ姿を見ただけ。
それは彼の人生には自分はまるで必要ないと言っているようで。
酷い嫉妬心、そして闘争心が生まれた。
忍者として、人間として、1人の男として。
この者と肩を並べたいと思った。
超えたいと思った。

ようやく自分がアカデミーを卒業した頃、彼は手の届かない所にいた。
既に中忍になっていたのだ。
それでも構わなかった。
何年かかっても追いつく、追いつけるという自身があった。
その自身は何処から来るのか自分でもわからなかったけれど。
がむしゃらに走ってた。
いつか、君に会えると信じて。


「カカシ…はたけカカシ!」

漆黒の世界で君を見た。
火影直属を表す面と装束。
血のにおいすらしない。
顔は見えなかった。
けれども間違うはずがない。
だって、何年追い続けてると思ってんだ。

「……」

無言の君。
今思えば当たり前だ。
ここで返事なんてしたら、面をつけている意味がない。
足を止めてくれた事に感謝し、一方的に喋り出す。

「オレの名前はマイト・ガイだ!どうだナウいだろ?よろしくな!」
「……」
「もう少し!もう少しだけ、待っていてくれないか!」
「……」
「もうすぐでそっちに行けるから!」
「……」
「だから待っていろ!」
「……」
「暗部にはなれないかもしれないが、上忍としてお前に会いに行くから!」
「……」
「だから」
「来ちゃ、ダメだよ」
「えっ」 

放たれた言葉は銀色と共に闇に溶けて消えていた。

初めて聞いた声。
震えてた。
彼にはいろんな暗い噂が絶えないけれど。
彼の笑顔を見た者は誰もいないと言うけれど。
絶対、綺麗だと思うんだけどなぁ。
顔も見た事がないのに、そう思った。

来るなだなんて言われたら、行きたくなるのが人の性。
追いつく。
追いつける。
追いついてやる。
追い越してやる。

是が非でも。

「ガイくん、何してーんの?」

ガラ、と教室のドアが開いた。
思い出に浸っていたのだと説明してやると、眉毛を下げて笑った。 片目しか見えないが、綺麗だ。

「よし、帰るか!あの夕日に向かって走るぞ!カカシ!!」
「何言っちゃってんのガイくん…!?」

カカシの笑顔はオレが初めて取り戻した。
誰から?とかはわからないけれど。
そんな自意識過剰があったっていいだろう?
神様だって、怒りゃしないさ。

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2006/05/03

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