28.映画

「なーんか、チョコレート食べたくなっちゃった」

さっきまで見ていたのは75年制作の元祖の方。
去年リメイクされたものがあったけど、どうせなら…ということでこっちから見る事にした。
僕の家のテレビは最近オンデマンドにしたばかり。
そのお陰か、先週からいのが僕の家に遊びに来るようになった。
昨日は何の映画を見たんだっけ?
ここ毎日のように見ているから昨日と一昨日がごっちゃになっている。
それだけ、いのが僕と一緒の時間を過ごしているという事でもあるんだけど。

「簡単なのでよろしければ今からお作りしますが?」

こういう時、自分がパティシエでよかったと思う。
まぁ、まだ見習いなんだけど。
エプロンを手にキッチンへと向かった。
わざとらしくポーズをつけて言うと、いのもオジギをしちゃったりして。

「よろしくおねがいしまーす」

いのには笑顔がよく似合う。
つられてにへら、と笑ってエプロンを腰に巻いた。
最近戻ってきたいのの笑顔が嬉しくて、ちょっぴり痛かった。

キッチン横の棚を調べると大量のポテトチップスがあった。
目当てのモノはこれじゃなくて。
その奥に製菓用のチョコレート。
そうそう、コレコレ。
冷蔵庫には確か昨日買った生クリームがある。
こっちの棚には…ビンゴ。ココアパウダーがあった。
ラムとブランデー、いのはどっちが好きだっけ?

「じゃ、作りますか」

甘くておいしくて太らないやつ。
いののオーダーはいつも厳しい。
そんなもの作れるはずがない。
だからせめて。

「何作るの?」
「トリュフだよ」
「やった!」

甘くておいしくて思わず笑顔になっちゃうようなの作るから。
それが今の僕にできる、精一杯の。

「…チョウジ」
「んー?」
「ありがと」
「いいよー、材料ちょうどあったし」
「そうじゃなくて、」
「……」
「…ありがと」

伝わってた、みたい。

ついつい嬉しくなってしまって。
チョコレートを刻む手が、心臓と同じくらい速くなってた。

「っあ、明日、何見る?」
「勿論、チャリチョコよー!」

明日はガトーショコラにしようかな。
刻みすぎたチョコレートを見て思った。

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2006/05/04

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